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細胞老化は,もともとヒト線維芽細胞が一定回数の細胞分裂を繰り返すことで,恒久的な増殖停止をきたす現象として発見された.この現象はDNA複製に伴うテロメアの短小化が細胞にストレスを与えることに起因するが,その後,テロメア短小化以外のさまざまなストレスによっても細胞老化をきたすことが示されてきた.細胞老化をきたすさまざまなストレスのなかにはがん遺伝子活性化によって引き起こされるものも含まれており,たとえば培養細胞にがん遺伝子rasの変異体を強制発現させると,細胞周期が停止して細胞老化と同様の形態になることが示されている1).この現象はoncogene-induced senescence(OIS)とよばれている.がん遺伝子とは別に,細胞老化誘導に関連する代表的な遺伝子としてp16INK4a,p53,p21WAF1/CIP1,RBなどがあげられるが,これらはがん抑制遺伝子として知られている.こうした知見から細胞老化とは無限増殖を回避するための,細胞に備わった発がん抑制機構と考えることもできる.実際にがん細胞に細胞老化を誘導することによって組織特異的に腫瘍抑制が起こることが示されている2).また老化細胞の特徴のひとつとして,炎症性サイトカインやケモカインなどのさまざまな生理活性物質を分泌することも明らかとなっており,この現象はsenescence-associated secretary phenotype(SASP)とよばれている.SASPは免疫応答や創傷治癒など生体の恒常性維持に重要な働きを持つ一方,慢性的な炎症反応を引き起こすことで発がんを促進する働きもある.以上のことから細胞老化と発がんの関連性は,一見相反するように見えて一部では相乗的に働いている部分がある(図1).
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