特集 小児外科疾患の発生を考える
腸回転異常症
伊勢 一哉
1
Kazuya Ise
1
1山形県立中央病院小児外科
pp.824-826
発行日 2025年8月25日
Published Date 2025/8/25
DOI https://doi.org/10.24479/ps.0000001279
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はじめに
腸回転異常症(本症)は,胎生期に腸管が腹腔内に戻る際の腸管の回転異常と腸間膜の固定異常に起因する。本症の病態は,症候性と無症候性に大きく分けられる。症候性では,上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)を軸とした中腸軸捻転(midgut volvulus)による腸閉塞,上行結腸と右側腹膜との間の線維性膜様物(Ladd靱帯)の形成による十二指腸の圧迫閉塞,その他に内ヘルニアなどをきたす。ここで「腸回転」と「腸軸捻転」は意味が異なることに注意を要する。症候性の発生頻度は,出生5,000~20,000人当たり1例で,無症候性を含めると剖検例500人に1人と報告されている。これは,腸回転異常を持つ患者の多くが生涯無症状のままであることを示す。そして,多くの症例において回復あるいは代償機構が存在し,発生学的要因の他に環境的要因が存在する可能性も示唆される。発症時期は新生児期が61~87%1)と多く,先天性疾患が30~60%に認められ,手術中に偶然発見されることもある2)。最近のデータでは,年長児や成人の症例が増えており,一部では,新らたに診断された症例のほぼ半数が成人であったと報告されている3)。慢性および非特異的な腹部症状を伴う症例のなかには本症が含まれていることもあり,診断においては臨床的概念の理解が必要である。男女比は約2:1で,新生児期の発症では男性の有意性が認められるが,乳児期以降に診断された症例では有意な性差は認めないことから,乳児期の症候性症例では,男性の有意性について遺伝的要因の可能性が示唆される。

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