母乳と腸内細菌

はじめに

　母乳栄養が有用であることに異を唱える読者はそうはおられないであろう。統計学的にも栄養学的にも母乳栄養の有用性は証明されてきた。一方，腸内細菌叢がヒトの健康に及ぼす影響については科学的に証明されつつあるが，プロバイオティクス治療は薬物治療ほどの影響力を実地臨床に及ぼしているとはいえないという印象を読者の先生方もおもちではないであろうか。母乳栄養を腸内細菌叢と結びつけた総説はあるが，なんとなく科学的なインパクトに欠けるものばかりというのが素直な印象である。この総説では，ごく最近の科学誌で明らかになった腸内細菌に関する知見をまとめながら，母乳栄養の腸内細菌叢に関わる有用性について，あたかも靄がかかったかのような実感の現状を少しでも晴らしていきたいと考えている。