- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
社会モデル(social model of disabailities)
筆者は,脳性麻痺をもっており,電動車いすに乗って生活をしている小児科医である。筆者が生まれた1970年代は,機能障害をもつ子どもが生まれると,早期に発見して濃厚な療育を行うことで,少しでも健常児に近づけることがよいことだとされていた時代だった。筆者も物心つく前から,1日約6時間の痛みを伴う訓練を毎日続けたが,結局,健常児に近づくことはなかった。しかし1980年代に入ると,障害についての世の中の考え方ががらりと変わった。従来,障害は本人の(精神機能や認知機能を含む)身体の「中」に宿るものとされてきたが,それは間違いで,少数派の身体的特徴をもつ人々と,多数派向けの社会環境との「間」に宿るものだと考えられるようになったのである。たとえば,エレベーターのない映画館に車いすに乗った人が入れないという状況を例に説明すると,1970年代までは「階段を昇れない身体」の中に障害が宿ることが原因なので,これを取り除くことが目指されていたが,1980年代以降は,「階段を昇れない身体」と「エレベーターのない映画館」という社会環境との間に障害が発生しているのだから,身体を環境に適応させるための時間や労力,心理的,経済的なコストが高いならば,環境の側を少数派の身体になじむものへと改変すべきと考えられるようになったのである。今日では,前者の古い考え方を「医学モデル」,後者の新しい考え方を「社会モデル」とよぶ。そして,医学モデル的に捉えられた身体的特徴としての障害を「機能障害(インペアメント:impairment)」,社会モデル的に捉えられた身体と環境との間に宿るものとしての障害を「障害(ディスアビリティ:disability)」とよび分けるようになった。
© tokyo-igakusha.co.jp. All right reserved.