特集 周産期の薬物療法 update 2025 産科編
各論:周産期感染症
トキソプラズマ感染
谷村 憲司
1
TANIMURA Kenji
1
1神戸大学大学院医学研究科外科系講座産科婦人科学分野産科生殖医学部門
pp.964-967
発行日 2025年8月10日
Published Date 2025/8/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri0000002255
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はじめに
Toxoplasma gondii(T. gondii)は,Apicomplexa門に属する偏性細胞内原虫寄生体で,ネコ科動物を終宿主とし,オーシストの形で糞便中に排出され,ヒトを含むさまざまな恒温動物を中間宿主としてシストの形で主に筋肉や脳内に潜伏感染する。ヒトへは,土壌や水に混入,もしくは洗浄不十分な生野菜や果物に付着したオーシスト,加熱不十分な食肉中のシストの経口摂取,稀に臓器移植や輸血,加熱処理されていない牛乳の摂取によっても感染する。すでに全人類の3分の1がT. gondiiに感染していると考えられている1)。妊婦がT. gondiiに初感染すると経胎盤的に胎児感染を起こし,罹患児に網脈絡膜炎,脳内石灰化,水頭症,脳炎,精神発達遅滞などの症状を呈する先天性トキソプラズマ症を引き起こすリスクがある。わが国における先天性トキソプラズマ症の発症頻度は10,000分娩中0.9~2.6人と推定されている2)。

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