特集 快適で安全な周産期の麻酔のために
総論
産科:時代に沿った無痛分娩の提供体制
海野 信也
1,2
UNNO Nobuya
1,2
1北里大学名誉教授
2JCHO相模野病院周産期胃母子医療センター顧問
pp.1318-1327
発行日 2025年11月10日
Published Date 2025/11/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri.0000002353
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
「無痛分娩」という用語について:分娩のケアのなかで,産痛の緩和は大変重要な課題であり,歴史的にもさまざまな取り組みが行われてきている。現時点では,硬膜外麻酔あるいは脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(CSEA)などの神経幹麻酔の手法を用いた神経幹鎮痛法(neuraxial labor analgesia)が最もポピュラーなものとなっているが,薬物を用いた方法でも,笑気(NO)や吸入麻酔薬を用いた鎮痛法が欧米では19世紀から普及しており,それ以外にオピオイド系の鎮痛薬の非経口投与,鎮痛薬の経口投与などが用いられることがある。非薬物的方法としては,birth attendantによる持続的なケア,水中分娩,呼吸法,鍼灸法などの多彩な方法が考案されて有効性が示され,実践されている1)。わが国では,神経幹麻酔法によるものだけを「無痛分娩」と呼び,それ以外の方法によるものを総称して「和痛分娩」と呼ぶことがある。また,神経幹麻酔法以外の薬物を用いた方法を「和痛分娩」と呼ぶこともある。さらに,どの方法にせよ,完全な無痛は得られない,そこまでの鎮痛の必要はないという考え方に基づいて,神経幹麻酔法も含めて「和痛分娩」と呼んでいる施設もある。「無痛分娩」という用語は実際の医療行為を表すには不正確で曖昧であるということでlabor analgesiaの訳語でもある「分娩時鎮痛」を用いるべきという意見も強くなっている。本稿では,これまでの経緯から「無痛分娩」と「分娩時鎮痛」という用語の両方を用いるが,その意味するところに大きな違いはなく,「神経幹麻酔法による分娩時鎮痛」であると理解してもらいたい。

© tokyo-igakusha.co.jp. All right reserved.

