特集 産科医療補償制度15年でみえてきたもの―脳性麻痺の原因分析と再発防止策
総論
産科医療補償制度が周産期医療現場に与えた影響
石渡 勇
1,2
ISHIWATA Isamu
1,2
1日本産婦人科医会 会長
2石渡産婦人科病院
pp.29-37
発行日 2024年1月10日
Published Date 2024/1/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri.0000001395
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はじめに
わが国の周産期医療レベルは2020年,周産期死亡率0.6,新生児死亡率0.8,また,1億人以上の国では妊産婦死亡率も2.6に示されるように世界最高水準である1)。一方,周産期医療体制維持の危機も叫ばれている。産婦人科医・新生児科医不足と周産期医療システムの不備である。かつて,初期臨床研修制度開始に伴う地域の医師不足(周産期医療スタッフの地域的偏在),過重労働で敬遠される産婦人科,無事で生まれて当たり前との国民の認識から,異常が起きれば非難され,産婦人科医の産科離れがあった。医療資源の不足のなか産婦人科医の献身的努力でやっと支えられているような危機的な状況は今でも続いている。さらに,2024年4月から実施される「医師の働き方改革」での時間外労働の大幅規制が始まり,宿日直許可が認可されていない場合,外勤での宿日直時間が加算されてしまう。出向元も出向先も双方に負担がかかる。また,分娩費用等の「保険化」は2026年4月に実施されることが検討されている。全国一律の保険化になれば経営上も存続できなくなり,お産難民が多数出現し,日本の周産期医療は崩壊するとの懸念もある。
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