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今年(2016年)度の日本感染症学会総会・学術講演会は「One Health」をテーマに,4月15日,16日の2日間にわたって仙台で開催された。One Healthとは人類の健康は動物や環境の健康と関連するという考えに基づく概念であり,昨今問題となっている新興感染症や薬剤耐性菌への対応を考える際に欠かすことのできない概念でもある。2014年にWHOは抗微生物薬耐性(AMR)に関するグローバルレポートをはじめて発表し,微生物薬耐性菌が公衆衛生上の脅威であることに警鐘を鳴らした。さらに2015年にはOne HealthアプローチによるAMR克服のためのグローバルアクションプランを採択し,WHO加盟国に行動計画の立案・実行と報告を求めた。 先進国首脳会議(G7)でもAMR対策は主要議題のひとつとなっており,今年(2016年)開催された伊勢志摩サミットでも首脳宣言に盛り込まれた。これに呼応し,わが国でも2016年4月に内閣総理大臣が主宰する「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」より「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」が発表され,向こう5年間の基本方針が定まった。 感染症関連学会からは,新規抗菌薬の開発に向けた8学会提言「世界的協調の中で進められる耐性菌対策」や,抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言「抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)プログラム推進のために」が発表され,国の方針を後押ししている。このような背景から今年(2016年)の学会テーマであるOne Healthは,まさに時宜を得たものと言えよう。 私が期待をもって仙台入りしたのは学会前日の4月14日であったが,同日午後9時26分,震度7の激震が熊本地方を襲った。地元からの連絡で退っ引きならない事態であることを知り,翌15日に予定されていた発表をキャンセルして熊本に戻り,16日未明の本震に遭遇した。震度7の直下型地震が連続して発生するのはきわめて異例とされ,多くの家屋倒壊・損壊により,ピーク時で避難所が855個所,避難者数が18万人を超え,避難所の衛生環境整備や感染防止対策が大きな課題となった。医療救護班からの要請もあり,日頃から活動している「熊本県感染管理ネットワーク」として避難所の感染対策に組織的に取り組むこととなった。保健所を含む行政との連携,県内外の感染制御チームのコーディネート,避難所の症候サーベイランス,日本環境感染学会からの支援受入れ等々,さまざまな活動を行った。支援をいただいた多くの皆様に誌面を通じて感謝申し上げると同時に,今後の災害時感染制御活動に少しでも役立つように,今回の経験を記録として残すことが私どもの責務であると改めて感じる次第である。