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近年,カルバペネム系薬耐性の腸内細菌科細菌(CRE)など新たな抗菌薬耐性菌の出現がわが国でも問題となってきた。この原因として,旅行者を介した耐性菌の持ち込みや,医療機関のみならず養殖や畜産領域での抗菌薬の濫用も指摘され,地球環境全体における「One Health」の概念も提唱されはじめた。平成26年(2014年)4月には世界保健機関(WHO)がはじめて耐性菌蔓延の状況を“Antimicrobial Resistance Global Report on Surveillance”としてまとめ,AMR(Antimicrobial Resistance)アクションプランの策定を各国に求めた。これを受けて,わが国でもアクションプランが発表され,先日開催されたG7伊勢志摩サミットではこの問題を議長国として取り上げ,感染症診療や耐性菌対策をわが国が世界をリードしうる重要領域として位置づけた。 その具体的方策としては,近年,わが国でも盛んに提唱されるようになった Antimicrobial Stewardship(AS)のプログラムを進めることのほか,やはり新規抗菌薬の開発も重要であろう。したがって今後も,我々抗菌化学療法の専門家のさらなる研究や実地臨床での啓蒙活動はもちろん,多くの歴史に残る名薬を世に送りだしてきたわが国の創薬メーカーの努力も大いに必要となる。我々はふたたび産学一体となって,新たな抗菌化学療法の扉を開けるべく,世界に先駆ける新たな創薬活動を推進すべき時期にかかってきたと言えよう。 ただし,薬剤耐性菌感染症を対象とした新たな抗菌薬開発には多くの難題が立ちはだかる。その中でももっとも大きな問題のひとつとして治験が困難なことがある。特にわが国で治験を行う場合,対象となる耐性菌症例がきわめて少ないという問題が大きく圧し掛かり,多くのメーカーが海外をおもなフィールドとして,海外頼みで臨床開発や研究を進めている現状がある。これでは,わが国が創薬分野をリードすることはままならない。したがって,基礎試験の方法や臨床試験の方法そのものはそのまま踏襲できるにしても,臨床試験を組む上で下記の事項が重要となろう。 ①「ネットワークの形成」:むしろ耐性菌では複数の異なる地域から分離された菌株を対象とすることが望ましく,国内でも国もしくは学会主導でのそうしたシステムを作る方向性を模索すべきである。各メーカーではグローバルな規模での開発も進められているはずであろうが,国や学会主導での国際的なネットワークを提唱すべきなのかもしれない。 ②「特殊病態の解析」:小児のほか高齢者でも安全性のみならず薬物動態が担保できない。本来,年齢別に層別解析などが必要なのかもしれないが,いわゆる,PK-PD(薬物動態学-薬力学),アニマル・スケールアップといった手法をさらに応用すべきである。 ③「特別措置」:2009年のパンデミックインフルエンザの際にはワクチンや抗インフルエンザ薬が海外データを受けて早急な特別認可を受け,大きな恩恵となった。 今後,これらの議論が活発に行われ,わが国主導での創薬分野における具体的成果が表れることが楽しみである。