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1.はじめに
抗菌薬については,日本発の医薬品も数多く世界で使用されている領域の一つと言えよう.数多くの製薬企業が日本国内に研究所を有し,シーズの抽出・合成を行い,それらを臨床開発,承認取得と着実に実を結ばせてきた.現在も世界で広く使用されている抗菌薬の中には,日本発のシーズであったり,日本が世界に先行して開発・承認取得をしているような抗菌薬も数多く存在している.
これらの抗菌薬の多くは,β-ラクタム系薬やキノロン系薬といった広域スペクトルを有する抗菌薬であり,呼吸器感染症や尿路感染症を中心に比較臨床試験が実施され,その抗菌薬の科学的特徴やその時々の医療ニーズに応じ,外科,産婦人科,耳鼻咽喉科などの領域の感染症に対する開発が実施されてきた.これらの抗菌薬の使用により,われわれは数多くの感染症を克服することができたが,新たな抗菌薬が登場するたびに新たな耐性菌の問題に遭遇していることも事実である.このような状況は海外でも同様であり,近年では国内外を問わず抗菌薬開発は,主として耐性菌感染症治療薬を標的としている.
世界の抗菌薬の登竜門であるICAAC(Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy,http://www.icaac.org/)にて発表されている抗菌薬を見ても,新規化合物としては,細菌を対象とするものでは耐性Gram陰性菌や耐性結核などを標的としたものがほとんどである.本年も9月にICAACが開催予定であり,Gram陰性菌,結核菌を対象とした新しい作用機序の検討状況について報告されることがすでにプログラムとして公表されている(http://www.icaac.org/index.php/scientific-program/sessions/invited-sessions).
開発者についても変貌をとげており,従前はいわゆるメガファーマと呼ばれる企業名を聞けば誰もが周知であるような大手製薬企業がシーズの段階から開発を進めてきていたが,昨今は,ベンチャー企業と呼ばれるような比較的小規模の開発経験が少ない企業がシーズを提供している場合が多い.
患者側においても変化があろう.医学薬学の進歩に伴い,免疫低下状態にあるような患者も増えてきている.多剤耐性菌による感染症患者には,このような患者も多く含まれており,その病態には複雑な背景因子が関与してくることも少なくない.多剤耐性菌を対象とした抗菌薬開発においては,たとえ比較臨床試験が実施できたとしてもこうした患者が有する複雑な背景要因が試験成績にバイアスを与えないような配慮が必要となってくる.
本稿では,このような環境の変化も含め,多剤耐性菌に対する抗菌薬開発の動向についてまとめてみたい.
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