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2000年4月27日の読売新聞朝刊によれば,各界の著名人に対するアンケート調査の結果,20世紀に人類を幸せにしたものベスト10の第1位はペニシリンをはじめとする抗菌薬で,102票中73票を獲得している.ちなみに第2位はテレビジョン,第3位は飛行機で,以下コンピュータ,電話,洗濯機,冷蔵庫,映画,自動車,ラジオと続いている.個人的には自動車などはもう少し上位にランクされても良いような気もするが,自動車により交通事故が著明に増加したことによるためなのか,意外と評価が低かったようである.もちろん最近話題の原子力は圏外であった.抗菌薬の出現により感染症を積極的に治療することが可能となり,人間の寿命は,それが本当に幸せであるかどうかは別として,大きく延びることにつながったことは事実である.そのような意味で,抗菌薬が20世紀に人類を幸せにしたもののベスト1として評価されたのだと思われる.
一方で,抗菌薬の進歩は微生物の側にも変化をもたらすことになった.抗菌薬開発の歴史は耐性菌の出現との競争の歴史と言われているが,1940年代半ばにペニシリンが工業的に大量生産され始めた頃には,すでにペニシリンの分解酵素(ペニシリナーゼ)をもつ大腸菌や黄色ブドウ球菌が出現していたこと,このペニシリン耐性菌に対抗するために1960年代にメチシリンをはじめとするペニシリナーゼに安定なペニシリンが開発,使用されるようになったが,すぐにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が出現したことなどからも明らかなように,抗菌薬が新たに開発され使用されると同時に細菌は耐性化し,それらの耐性菌による感染症は,常に感染症・抗菌化学療法の分野で注目され続けているのである.
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