特集 透析患者の睡眠障害,睡眠関連呼吸障害群
2.睡眠関連呼吸障害群(1)透析患者における睡眠時無呼吸症候群の疫学と予後
田中 茂
1
1九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター
キーワード:
透析患者
,
睡眠時無呼吸症候群
,
夜間体液シフト
,
心血管合併症
,
生活の質
Keyword:
透析患者
,
睡眠時無呼吸症候群
,
夜間体液シフト
,
心血管合併症
,
生活の質
pp.1315-1321
発行日 2025年10月10日
Published Date 2025/10/10
DOI https://doi.org/10.19020/CD.0000003607
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透析患者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,有病率が50〜80%と一般人口に比べきわめて高い.高齢・肥満といった共通の危険因子に加え,透析患者に特有の「夜間体液シフト(臥位時に下肢の水分が頸部へ移動する現象)」が上気道を物理的に狭窄させ,SASを発症・悪化させる要因となっている.SASは,睡眠中の間欠的低酸素と交感神経の持続的活性化を引き起こす.これにより,治療抵抗性高血圧,左室肥大,心不全,不整脈といった致死的な心血管合併症のリスクが著しく増大する.複数の研究で,SASは透析患者の全死亡および心血管死亡の独立した強力な予測因子であることが示されている.さらに,睡眠の質の著しい低下は,日中の過度の眠気,慢性的な倦怠感,認知機能低下,抑うつなどを招き,患者の生活の質(QOL)を多方面から深刻に損なう.しかし,これらの症状は腎不全や透析に伴う倦怠感などとして見過ごされ,未診断・未治療の患者が多数存在するのが現状である.透析患者の生命予後とQOLを改善するためには,臨床現場におけるSASへの認識を高め,積極的なスクリーニングと診断,そして持続陽圧呼吸(CPAP)療法などの適切な治療介入につなげることが不可欠である.

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