8．サイコオンコロジーのエッセンス

がん医療のなかで，医療者は必ず患者の精神症状に遭遇する．透析がん患者においても同様である．最近の報告では，精神疾患に罹患していないがん患者が，がん罹患後に新たに精神疾患を発症した場合にがん関連死亡率が高くなることが指摘されている．しかし，現場での正確なアセスメントは意外に難しい．向精神薬を使い分ける，抑うつを呈する患者に支持的サポートを行うことの前提は，面前の患者の精神症状を正しくアセスメントすることにある．精神症状を疑った場合には，身体的症状を丁寧に評価し，その後，精神症状，社会経済的背景，心理的背景，実存的な背景について順番に評価することが重要である．せん妄，認知症，うつ病の鑑別はこのアセスメントの順番が重要な典型例である．本稿では，サイコオンコロジーのエッセンスとして透析がん患者の現場でもっとも頻度の高いせん妄と抑うつの鑑別について概略する．