特集 維持透析患者の喪失感―理解・克服への支援
Editorial
大平 整爾
1
1札幌北クリニック
pp.1305-1306
発行日 2017年9月10日
Published Date 2017/9/10
DOI https://doi.org/10.19020/CD.0000000179
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北大に入学したその年の6 月に18 歳の私は,48 歳の母を肝不全で失った.あまりに急なあっけないことで,衝撃が強く虚脱状態になってしまった.1 週間大学を休んだときに,事情を聞いて心配した同級生が下宿を尋ねてきてくれた.彼は小一時間ほど雑談をして「“Count your blessings.”という言葉を知っているかい」と何気なくだが真剣な眼差しで言って帰って行ったのだった.少しして,彼が2 年前に母親と死別していることやクリスチャンであることを知った.Count your blessings. は讃美歌の歌詞にあり,「自分に恵まれているものを数えてごらん」という意味であることがわかった.Name them one by one.(それらを一つひとつ挙げてごらん)と続くらしい.彼の謎めいた眼差しが気になる一方,何か霊感が働いて久しぶりに授業に出たその日の夜,わがblessings を雑記帳に書き出してみた.父親・姉弟妹・親戚・友人・教師・下宿のおばさん等々,私を取り巻いている人々を列記するだけであっという間に50人を超えた! それから,思い出や健康・読書・音楽・スポーツなどあらゆることを些か向きになって書き連ねていった.気がついたときにはノートが6 ページ殴り書きの文字で埋まって,不思議なことに私の心も何やら安堵感に溢れていた.「私は一人ぽっちなんかではない」という気持ちを強くもてたのである.この作業が私の萎えた心をしゃきっとさせてくれたことは間違いない.その後も死別した母を思い出すことはしばしばあったが,Count my blessings で乗り越えられてきている.
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