特集 エビデンスと経験が紡ぐ未来の産科診療―科学的探究がもたらす新たな視点
1.妊産婦の鉄欠乏性貧血とその影響―個人の健康から社会全体に及ぶ課題―
竹田 純
1
J. Takeda
1
1順天堂大学産婦人科学講座(准教授)
pp.337-341
発行日 2025年4月1日
Published Date 2025/4/1
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000003353
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貧血は単なる血液の希釈ではなく,全身の健康に深刻な影響を及ぼす疾患である。特に生殖年齢の女性では月経による鉄損失の影響を受けるため,貧血の有病率が高く,日本ではその割合が20%以上に達している。本来,鉄は体内で効率的に再利用される仕組みをもつため健康な状態では容易には貧血には陥らないと考えられるが,日本人はやせ型の体型が多く健康リテラシーが低いことも指摘されており,これが高い貧血率の一因となっている可能性がある。貧血の放置は単に個人の健康問題にとどまらず,妊娠時には胎児発育不全や早産,分娩時の異常出血など,周産期の有害事象のリスクを増大させることが知られている。また,貧血による欠勤や集中力の低下などは,労働生産性の低下を招いている。このように,貧血は個人の健康のみならず,次世代の健康や社会全体の生産性にも大きな影響を与えることから,早期診断と適切な治療介入の徹底が求められている。

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