憧鉄雑感
第137回 診断書の効力
安部 正敏
1
Masatoshi ABE
1
1医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック
pp.1443-1443
発行日 2023年8月1日
Published Date 2023/8/1
DOI https://doi.org/10.18888/hi.0000004124
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泣きそうになる男の目が痛いほどこちらに突き刺さる。場面は我が外来。診断書を書いてほしいと哀願する。これだけなら何ら普通の診療風景であるが,何が問題かといえば皮膚症状が殆んどないのだ。“先生! 本当にかぶれたんですよ! だから先生診断書を書いてください!” そう言われてもこちらが治療し経過を追えば診断書は書けるが,だしぬけに来院してうっすら残る色素沈着だけでは逆立ちしても無理である。だが,男泣きとは程遠い滑稽な泣き顔の男の気持ちもわからぬものでもない。薬用化粧品を通販で買ったとのこと。商品が送られてきて使用したらかぶれたようだ。そこで来院すればいいものをドラッグストアに行き市販薬で治癒せしめた。驚くのはここからで,かぶれたので契約中止を申し出たところ返金はできぬとの返事。何とこの男,よほど御目出度いとあって最初に3年分を一括支払ったらしい。完全な悪徳商法のカモである。消費生活センターなどに相談するも上手くいかず,粘りに粘って遂に医師の診断書があれば一部返金するという。“先生を慕って来たのです! お願いです!” 当院では複数医師が診療しており指名も受け付ける。当初 “どの医師でも良い” などと言っておりいかにも胡散臭い。ただ,確かに同情の余地はある。一計を案じ,色素沈着だけ記す診断書を提案した。原因として接触皮膚炎もありうると付記する大譲歩である。恐らく悪徳業者には内容ではなく書類そのものがモノをいうのであろう。筆者も皮膚科医の端くれ,嘘はつけぬ。その悪徳業者は名も知らぬ会社名で,何故そのようなものに騙されるのか不思議でならない。
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