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抗血小板療法中に両眼の網膜動脈閉塞症(RAO)を発症した,コントロールの良い糖尿病患者の1例を経験したので報告する。症例は66歳男性,深酒をした翌朝に右眼の急激な視力低下を自覚したために近医を受診し,右眼の網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)を指摘され大阪大学医学部附属病院眼科(当科)受診となった。糖尿病歴は8年,BMI 31.2で肥満であるものの,SGLT2阻害薬の内服治療のみでHbA1c 6.1%と良好にコントロールされていた。以前に頸動脈エコーでプラークを認めたために一次予防として抗血小板療法が開始され,ほかに高血圧,高脂血症,脳梗塞など特記すべき既往歴はなかった。初診時視力は右(0.5),左(1.0)で,右眼の網膜動脈の分枝に塞栓子,閉塞領域に網膜の白濁を認め,BRAOと診断した。両眼とも糖尿病網膜症の所見はみられなかった。受診時には発症後2日経っていたこと,また発症前夜に深酒をしていたことが発症機転と考えられたことから経過観察となった。その後,患者は断酒のうえ,減量しBMI 26.4程度に改善して維持していたが,3年後に左眼の突然の視力低下を自覚し,発症から75分後に当科を時間外受診した。受診時には左眼は光覚弁で,後極部に広範な網膜の白濁とcherry-red spotがみられ,網膜中心動脈閉塞症(CRAO)と診断し,直ちにマンニトールの点滴と眼球マッサージを開始したが,視力は発症後4か月で(0.03)であった。内科での精査の結果,頭部MRIでは微小梗塞を認め,頸動脈エコーでもプラークを認めたものの,明らかな狭窄はなく,心エコー,心電図,血液検査でも異常がみられないために,抗血小板療法を継続し,頭部MRIおよび頸動脈エコーによるフォローを継続している。
今回,血糖コントロールが良好で抗血小板療法中の症例においてもRAOを発症したことから,発症原因が明らかと思われるようなRAOを診た場合でも,頸動脈エコーを含めた詳細な全身検索およびフォローが重要であると思われた。
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