- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
ドライアイはさまざまな原因・危険因子によって生じるが,その発症メカニズム,特にドライアイの発症に炎症が関与するかについての考え方は国によって大きく異なる。日本では涙液の安定性の低下,水濡れ性の低下からドライアイが引き起こされると考えられているのに対し,欧米では2007 年のDry Eye Workshop(DEWS)のレポートに定義されたように涙液浸透圧の上昇に伴う「炎症」がドライアイの引き金と考えられている1)。言い換えるとドライアイにおける炎症は,日本では悪循環の結果として炎症が生じると考えられるのに対し,欧米では原因と考えられている。この概念の差異はドライアイ診療における診断法や治療薬にも影響する。ドライアイ診療においては,日本では涙液層の安定性,涙液の動き,角結膜の上皮障害などを重視するのに対し,米国では涙液の浸透圧も重要視される。また治療に用いる点眼薬をみても,日本では涙液の安定性の改善を主目的としたヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,レバミピドの3 種が処方できるが,米国ではシクロスポリンと接着分子のlymphocytefunction-associated antigen 1(LFA-1)阻害薬の2 種である。シクロスポリンやLFA-1阻害薬は,T 細胞の抑制を主作用とする免疫抑制剤であるが,ドライアイが炎症によって生じると考えられている証拠といえる。ただ米国ではドラッグストアで購入できる市販薬,OTC(OverThe Counter)が豊富で,人工涙液やヒアルロン酸の点眼薬なども眼科を受診せずにOTC として購入できる。欧州に至っては,ドライアイの処方薬は無い国が多い。このような考え方の違いは,医学・科学的な理由に加えて保険制度などの医療制度の違いも含めたさまざまな要因が関係すると考えられるが,これほどまでに治療薬が国によって異なる疾患も珍しいのではないだろうか。ドライアイは種々の原因で生じる疾患群であり,その原因によって炎症の関わり方も異なると考えられる。BUT 短縮型ドライアイ,涙液減少型ドライアイ,シェーグレン(Sjögren)症候群,移植片対宿主病などを考えても明らかなように,疾患により炎症の関与が少ないと思われるものや,炎症がドライアイの結果や原因であるもの,眼表面炎症疾患にドライアイが合併しているものなど,ドライアイにおける炎症の関わり方を一元的に述べることは難しいと考えられる。
Copyright © 2017, KANEHARA SHUPPAN Co.LTD. All rights reserved.