- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1971年にFolkman博士が癌治療における血管新生制御の有用性を予言して以来、間もなく半世紀となる。血管新生とは既存の血管から新たな血管を形成する過程であり、組織再生など生理的過程のみならず、腫瘍進展や転移といった病的過程においても不可欠な既存血管のリモデリング現象である。1980年代以後、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)に代表されるさまざまな血管新生を誘導する生理活性物質とその分子制御機構が明らかとなり、現在では抗癌剤・眼科領域治療薬(加齢黄斑変性症など)への臨床応用が実現した。2004年、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は初めて血管新生阻害薬ヒト化モノクロナール抗体ベバシズマブを承認した。ベバシズマブに対して、進行性大腸癌、続いて進行性非小細胞性肺癌に対する臨床第3相試験が行われ、ファーストライン薬として従来の化学療法レジメンと組み合わせることで、ベバシズマブはいずれの患者生命予後を有意に改善した。これらにより抗血管新生療法の有用性が確認され、ソラフェニブおよびスニチニブという新たな血管新生阻害薬であるマルチキナーゼ受容体阻害薬の使用がFDAにより認可された。これらはVEGF受容体や血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor:PDGF)受容体などの複数の標的チロシンキナーゼ受容体活性を阻害する経口可能な低分子化合物であり、進行性腎癌や肝細胞癌を中心に国内外で臨床試験での有効性評価が継続している。しかしながら、これら新規抗癌剤の登場は、同時にさまざまな心血管系有害事象の発症をもたらした。特筆すべきは、決して稀有な疾患ではなく、高血圧など、場合によっては併存症と誤認するようなcommondiseaseが低くない頻度で発症すること、さらにこれら有害事象の原因は、各抗癌剤の分子作用機序を知ることで理解・さらには予見できることである。本稿では、抗癌剤としての血管新生阻害薬について循環器内科医が知っておくべきエビデンスや基礎メカニズムについて概説する。
Copyright© 2018 MEDICAL VIEW CO., LTD. All rights reserved.