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は じ め に
ハイドロキシアパタイト・コラーゲン複合体(HAp/Col)は,無機材質研究所(無機材研:現国立研究開発法人物質・材料研究機構)で開発された生体材料で,1990年代後半より東京医科歯科大学(現東京科学大学)と共同で,人工骨への応用をめざして研究開発がすすめられた.HApとColの組成比は生体骨と同等で,ナノスケールレベルの構造も生体骨に類似している.HAp/Colはペースト状の共沈物として合成されるが,このペーストを圧縮・脱水して成形された緻密体を骨欠損に移植すると,良好な骨伝導が認められ,人工骨の素材として有望であることが確認された.2002年より商品化をめざしペンタックス社(現HOYA Technosurgical社)が開発に参画することが決まったが,緻密体は組織の進入性や製造コストなどの問題があり,また既存の人工骨との差別化の観点からも,その時点では商品化への具体的な道筋は定まっていなかった.
ちょうどそのころ,筆者らは多孔質HAp/Colの作製に成功し人工骨としての評価を始めていた.既存の人工骨が脆くて崩れやすいのに対し,開発された多孔質HAp/Colは湿潤状態でスポンジ状の弾力性を有し操作性に優れていた.また,骨欠損に移植した際にも良好な組織の進入性と骨形成が認められた.この結果を受けて,製品は多孔体とすることに決まり,製品としての多孔体開発が始まった.多孔化の手法,気孔率,滅菌法などの最適化,有効性,安全性の評価などを経て,2007~2011年に臨床治験を実施し,2013年より「リフィット」として上市された.リフィットは弾力性により操作性が優れているだけでなく,骨欠損に移植した際には欠損部に隙間なく充塡することができるため,母床骨からの直接的な骨伝導が起こる.現在では整形外科領域で骨欠損を補塡する骨補塡材として使用される以外に,骨髄液などを含浸させて脊椎固定や偽関節手術などにも用いられている.また,歯科用の製品も上市され,歯科領域でも使用されている.

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