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【要 旨】
目 的:抗血小板薬あるいは抗凝固薬の継続には出血リスクが伴い,休薬により心血管リスクが増大する.本研究の目的は,休薬せず継続使用した場合の抗血小板薬と抗凝固薬がリバース型人工肩関節置換術(RSA)の周術期出血量に与える影響を明らかにすることとした.
対象および方法:研究期間中のRSA全例を前向きに組み入れ,後向きに検討した.人工関節再置換例,上腕骨近位端骨折例,上腕骨ステムのセメント固定症例,抗血小板薬と抗凝固薬の2剤以上併用例,ヘパリンブリッジを行った症例も除外した.推定出血量の予測因子を決定するために重回帰モデルを用いた.説明変数として,抗血小板薬と抗凝固薬の使用状況,年齢,性別,身長,体重,術前診断,米国麻酔科学会の身体状態,麻酔リスク,喫煙の有無,術前1ヵ月以内の採血データ[推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR),プロトロンビン時間国際標準比(prothrombin time-international normalized ratio:PT-INR),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)],手術時間,ステム長,トラネキサム酸の使用,併存疾患(糖尿病,関節リウマチ,高血圧)を組み入れた.加えて,ヘモグロビン値およびヘマトクリット(Hct)値を術前および術後3日目に記録し,Gross式によりHct値の変化から周術期出血量を算出した.重回帰式の変数選択には赤池情報量基準(AIC)とp値を使用した.
結 果:RSA例315例(女性173例,平均年齢77.2歳)を解析した.推定出血量は819mlであった.変数選択後の重回帰式は統計的に有意であり(p<0.0001),アスピリン,直接経口抗凝固薬(DOAC),トラネキサム酸,身長,手術時間が統計的に有意な説明変数であった.各々の薬剤の予測出血変化量は,アスピリンで+283ml,DOACで+180ml,トラネキサム酸で-237mlであった.ワルファリンとシロスタゾールおよびプロスタグランジンE1アナログは重回帰式から除外された.
結 論:アスピリンとDOACの使用が周術期出血量増加の有意な予測因子であることが示された.一方,それぞれの増加量は許容範囲内であったことから,抗血小板薬と抗凝固薬の継続投与は予定手術として行われるRSA初回手術において比較的安全であることが示唆された.また,トラネキサム酸投与は出血を有意に減少させることが示された.

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