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はじめに:この領域のトピックス
治療可能な神経変性疾患が増えている.これまで神経変性疾患は有効な治療法が少なかったことから,脳神経内科に対する印象は,「治らない科」,「難しい科」といったものが多かった.しかし,近年の核酸医薬品を中心とした発展は目覚ましく,Duchenne型筋ジストロフィーに対してアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide:ASO)によるエキソン・スキップ療法としてビルトラルセン(週1回の点滴)が2020年に保険収載された.運動ニューロン疾患の一つである脊髄性筋萎縮症に対しては,同じくASOのヌシネルセン(髄注薬)が2017年に保険収載され,アデノ随伴ウイルス9型をベクターとした遺伝子治療薬オナセムノゲンアベパルボベク(2歳未満の児に対して原則一生に1回の点滴で治療完遂)が2020年に保険収載されるなど,画期的な治療法が世に出てきた.現在,家族性筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の一部においてもASOを用いた治験が進行している.このように従来のような対症療法ではなく,疾患修飾治療が可能となってきている.先に例示した治療法はデオキシリボ核酸(DNA)ないしその転写,翻訳を修飾することにより正常蛋白の機能を取り戻す治療法であり,遺伝医学を背景とした核酸医薬品が神経変性疾患の治療の画期的革新をもたらしている最中にある.
一方で,これまでの神経変性疾患の治験には多くの挫折があった.その原因として疾病が進行した状態での治験導入であったことが考察されている.そのため現在では早期診断,前駆期診断を重視し,早期発見のための臨床所見や生体試料を含めたバイオマーカー探索も余念なくすすめられている.脳神経疾患患者が他の診療科を初診で受診するケースは多いが,早期診断のためのすみやかな連携が今まで以上に求められる時代となってきている.
脳血管障害などは一分一秒を争うためただちに救急対応がなされるが,神経変性疾患は,診断がついても有効な治療法が少なかった経緯から,時間軸における優先度が低く,鑑別疾患の精査加療などを終えてから最終的に脳神経内科へ紹介となることも多かったと考えられる.しかし,神経変性疾患の治療法開発,治験の進行が著しい現在,積極的に疑うポイントを念頭において早い段階で連携を図ることの重要性が増している.
そのなかでもALSと頚椎症の鑑別は,整形外科と脳神経内科の両科が日常診療で遭遇する特に重要かつ頻度の高い事案である.本稿では,ALSと頚椎症の所見を整理し,診察および連携のポイント,脳神経内科診療の実際について種々の知見を交えながら総括する.
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