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は じ め に
直立二足歩行を行う人間において腰痛の発症率は高く,わが国だけではなく世界的にも有訴者率が高い.2019年国民生活基礎調査によるわが国の有訴者率のなかで,腰痛は,男性では第1位,女性は第2位であり1),適切な治療や予防は医療費を削減するための社会的な要請でもある.また,2002年の腰痛の年間医療費は約700億円であり,2011年は821.4億円と9年間で約120億円増加している.この医療費の増加の理由は,過剰治療,過少治療,誤治療が原因とされており2),腰痛診断の精度向上は適切な治療につながるため重要課題となっている.画像検査で原因を特定できない慢性腰痛患者は診断が困難であり,非特異的腰痛といわれ,仙腸関節障害もこれに含まれる.仙腸関節障害を診断する方法として,透視下での二度の診断的ブロック注射が有用であるとされている3).仙腸関節障害の疫学として,諸外国の報告では,腰痛者の25%前後3~5)とされているが,わが国では,山口大学のグループが画像所見に加え,質問紙や神経学的評価,脊椎所見,二度の診断的ブロック注射を行うことで,仙腸関節障害と診断された者は5.6%であったと報告している6).
仙腸関節障害を診断する方法として,さまざまな仙腸関節に対する疼痛誘発テストが報告されている.Laslettは,二度の診断的ブロック注射の結果を仙腸関節障害とした場合,distraction test,compression test,thigh thrust test,Gaenslen test,sacral thrust test,drop testの6つのテストのうち3つ以上の疼痛誘発テストが陽性であった場合,感度,特異度がもっとも高いとした7).また,van der Wurffらもdistraction test,compression test,thigh thrust test,Patrick sign,Gaenslen testの5つのテストのうち3つ以上が陽性の場合,診断的ブロック注射と鎮痛反応との間に相関関係があると報告8)している.どちらも一つの疼痛誘発テストの結果のみでは仙腸関節障害の診断は不十分であり,三つ以上の陽性で仙腸関節障害と診断することを推奨している.
これらの論文で仙腸関節障害の疼痛誘発テストとして用いられるdistraction test,thigh thrust testは前方から後方に腸骨への負荷,sacral thrust testは仙骨の後方から前方への負荷,drop testは上半身の荷重の仙骨への負荷,Gaenslen testは腸骨を前方回旋させる負荷により,それぞれ仙腸関節に剪断応力を加えることにより疼痛が誘発されることを確認するテストである.Patrick test(引用文献ではsignと呼称されるが本稿では以下testと統一する)は股関節外旋,外転方向への負荷,compression testは腸骨を側方からの負荷で仙腸関節に圧縮応力を加え,疼痛誘発を確認するテストである.
水平面上で仙骨に対して寛骨が内旋する内方腸骨をインフレア,仙骨に対して寛骨が外旋する外方腸骨をアウトフレアという9).仙腸関節に対する疼痛誘発テストは,剪断応力を考慮したものが多く,インフレア(後方靱帯への伸張応力)方向やアウトフレア(仙腸関節への圧縮応力)方向に負荷を加える手法が少ない.仙腸関節に対してこれらの負荷応力が加わることで疼痛が誘発される症例がある臨床事実から,負荷手技を考慮した疼痛誘発テストは,仙腸関節障害を有する病態をよりとらえられる可能性がある.股関節の可動域以上の負荷が加わると,負荷は腸骨を介して仙腸関節に伝達応力となるため,われわれは股関節を他動的に最大内旋させ,腸骨を介し仙腸関節に対してインフレア方向(anterior superior iliac spine:ASIS,上前腸骨棘が中心に向かう方向)に伝達応力となるインフレアテスト(図1),股関節を他動的に最大外旋させ腸骨を介し仙腸関節に対してアウトフレア方向(ASISが外側へ向かう方向)に伝達応力となるアウトフレアテスト(図2)を考案した.ほかの仙腸関節障害に対する疼痛誘発テストと比較し有用性を検討した.
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