Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
高齢人口の増加に伴い,健康寿命延伸のための取り組みは個人レベルでも社会レベルでも重要視されている.脊柱アライメント・バランスは加齢に伴い悪化することが知られている1,2).われわれは「おぶせスタディ」参加者の50~89歳の一般住民においても,矢状面バランスの前方化,腰椎後弯減少,骨盤後傾などという形でこの変化が起こることを明らかとしている3).高齢者の脊柱矢状面アライメントは冠状面アライメントと比べて生活の質(QOL)に強く関連しているとされる4).立位の脊柱バランスの大きな逸脱は立位を困難にする5).近年は成人脊柱変形手術が隆盛をきわめているが,これは崩れてしまった脊柱アライメントを至適な状態に矯正固定することでバランス不良に起因する腰痛や日常生活動作困難,機能性摂食障害,QOLの低下を改善しようという目的があってのことである.手術が必要であるレベルのアライメント不良ではないにしろ一般住民でも加齢とともにアライメントの悪化は起こっているが,一般住民レベルでのアライメント悪化の病的意義についてははっきりしない.
ところで一般的に高齢者のQOLを担保する代表的な要因としては,身体機能,認知機能,社会参加などがあげられる.「おぶせスタディ」においても,身体機能が保たれているほど認知機能もQOLも高く保たれていること,そして身体機能が保たれると転倒も少ないことが明らかとなっている6).骨折は高齢者のQOLを著しく低下させ要介護の主要因ともいえる事態である.これを防ぐという意味でも高齢者の身体機能は二重にQOLにかかわっている.
おぶせスタディでは50~89歳のロコモティブシンドローム(ロコモ)の有病率を明らかにしており,自宅で生活できている50~89歳の多数が,要介護になるリスクを潜在的に抱え,70歳以上ではそのリスクは特に高まっている状態であることがわかった7).特に,ロコモ該当者は50歳台であっても非該当者と比べ下肢筋力が小さいなど,一見普通に生活できていて本人の自覚がなくても,きちんと調べてみると身体機能の低下がみられることがある.われわれはこの潜在的な身体機能の低下をとらえることが検診での筋力測定など以外の面からできないかと考えた.その中で,加齢とともに悪化する脊柱姿勢が,実は身体機能の低下をあらわしているのではないかという仮説を立てた.
© Nankodo Co., Ltd., 2021