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は じ め に
2016年の統計によると,わが国の人口は1億2,693万人と世界で第10位に位置する1).一方,世界保健機関(WHO)で高齢者と定義される65歳以上の人口は3,459万人であり,総人口中の割合(高齢化率)は27.3%に達し,世界でもっとも高齢化のすすんだ国である2).世界一の超高齢社会であるわが国では,実際の平均寿命と支障なく日常生活が可能な健康寿命との差が問題であり,男性で9年,女性で12年以上の開きがある(2016年)3).健康寿命の大敵として自立度の低下や寝たきりが指摘され,筋骨格系疾患は要支援,要介護となる原因の第1位を占める(24.6%,2013年)4).実際,65歳以上の高齢者の有訴者率は44.6%と半数近くがなんらかの症状を自覚しながら生活しているが,上位5症状のうち3症状が運動器の障害(腰痛,肩こり,四肢関節痛)である(2016年)3).近年の状況から運動器の健康の増進がわが国の国の重要課題の一つにあげられている[健康日本21(第二次)]5).
この急速にすすむ高齢化に対し,日本整形外科学会は2007年,運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)[運動器症候群]」とする新たな疾患概念を提唱した6,7).ロコモは骨,関節,軟骨,椎間板,筋肉,神経などの運動器が障害されて立位保持や歩行機能が低下した状態をさし,進行すると日常生活動作に支障をきたすようになり,最終的には要介護状態へ陥ってしまう.骨や筋肉の量のピークは20~30歳代であり,40歳代以降に身体の衰えを自覚し始め,60歳代以降は自由の利かない身体となってしまう可能性がある.
運動器の加齢性変化は中年以降に認められるが,中でも脊椎,特に椎間板組織は身体でもっとも早期に退行性変性がすすむ組織として知られている8).腰椎椎間板の組織学的評価では11~16歳から変性所見が顕在化し始め9),30歳以下のおよそ40%に椎間板変性が観察され,55歳以降では90%にも及ぶ10).日本人を対象とした2005年の疫学調査では変形性膝関節症,変形性腰椎症,腰椎ならびに大腿骨での骨粗鬆症所見のX線学的な罹患率は総人口1億2,800万人のうち,それぞれ2,500万人,3,800万人,640万人,1,100万人と報告されており,やはり脊椎疾患の頻度が高い11).さらなる高齢化と社会経済学的負担の増大を抱える現代日本の健康問題の解決に向け,早期からのロコモ対策の啓発と普及が重要である.
具体的なロコモ対策として運動,リハビリテーションの励行と食生活の改善が推奨されている12).中でも「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」は「片脚立ち」と「スクワット」を中心に「ヒールレイズ」,「フロントランジ」を組み合わせた自己訓練法であり7,12),自身のロコモの程度(ロコモ度)に応じて強度が調整可能で取り入れやすい13,14).しかしながら高齢者が内容を十分に理解できているとは言い難く,転倒リスクなどから自身での継続に躊躇する場合も多い.加えて下半身の筋力強化,ストレッチが主体であるロコトレが頻度の高い脊椎疾患の治療や進展防止に対してどの程度有効か,エビデンスの集積はいまだ十分とはいえない.過去にピラティスによる6ヵ月間の介入が頭部の矢状面位置の改善をもたらしたとの報告があるが,体表からの評価でありX線学的検討ではなかった15).そのためわれわれは積極的なリハビリテーション介入を行っている市中病院と連携し,ロコトレの脊椎病変に対する科学的な介入効果を明らかにすべく,前向き介入調査を行った16).ロコトレが静的な脊柱,骨盤,下肢アライメントへ及ぼす影響について立位全脊柱単純X線像の撮影で評価を行い,動的な立位の体幹バランスに対して重心動揺計を用いて検討しており,本稿では調査結果の概説を行う.
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