私論
Doctor’s delayと行動経済学
-――ヒューリスティックをご存知ですか?
松本 嘉寛
1
1九州大学整形外科准教授
pp.1052-1052
発行日 2021年9月1日
Published Date 2021/9/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei72_1052
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
最近話題にのぼることの多い「行動経済学」とdoctor’s delayとのかかわりについて考えてみました.行動経済学(behavioral economics)は,ダニエル・カーネマン,エイモス・トヴェルスキーという2人のイスラエル人心理学者によって創始された学問領域であり,カーネマンは,後にノーベル経済学賞を受賞しました.行動経済学は「経済学」と名前はついていますが,個人の行動や選択の基本原理を追求することが大きな目的の一つです.カーネマンは,その代表的な著書である『ファスト & スロー』において,個人の行動選択には「速い思考」と「遅い思考」の二つの思考様式が使われていると述べています.「速い思考」は直感や経験に基づく思考様式で,自動車の運転などに使われます.一方,「遅い思考」は多彩な情報から必要なものだけを抜き出すときなどに発動する,いわゆる熟考と定義されています.「遅い思考」は集中力を必要とし,決断に時間を要するため,日常生活の多くは「速い思考」が用いられています.日々の生活を円滑に送るためには欠かせない「速い思考」ですが,大きな欠点があります.それは,判断に際して「遅い思考」に付け入る隙を与えず,安易な結論に飛びつく傾向です.
© Nankodo Co., Ltd., 2021