Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
臨床研究を実施する,臨床研究の結果を読み取るうえで,もはや「多変量解析」は避けて通れない.本項では,多変量解析を適用する事例として米国のフラミンガム研究をとりあげる.フラミンガム研究は,ボストン近郊のフラミンガム町の住民を対象に1948年に始まった米国を代表する前向きコホート研究である.高コレステロール,喫煙,高血圧が虚血性心疾患のリスク因子であることを明らかにした研究として広く知られており,現在も追跡研究が行われている1).研究開始当初,虚血性心疾患のリスク因子はほとんど知られていなかった.しかも,年齢,既往歴,身体所見,生活習慣,血圧,血液検査値などの複数の因子がそれぞれ単独に,また相互的に作用して,虚血性心疾患を引き起こす可能性を評価するための統計手法自体も明らかではなかった.このニーズに対応するために開発されたのが,臨床研究において代表的な多変量解析の一つとして知られている,ロジスティック回帰モデルである2).
臨床研究では,フラミンガム研究同様,複数のリスク因子が特定の興味のあるアウトカムにどのように影響するのかを分析したいことは多い.このような目的で利用される統計解析手法を,ここで多変量解析と呼ぶ.英語では,因子分析など複数のアウトカムを取り扱う解析方法と区別するために,multivariable analysisと表現することが推奨されているが,実際にはmultivariate analysisと記載が混同しているようである3).いずれにせよ,特定のアウトカムと複数のリスク因子の関係を適切にモデル化して多変量解析を行うことで,① たとえば喫煙の虚血性心疾患に対する影響に興味がある場合,その他のリスク因子を調整(adjustment)して喫煙グループと非喫煙グループの比較を行うことが可能となり,② 興味のある因子やその他のリスク因子のアウトカムへの影響の大きさをなんらかの指標で定量的に評価することが可能になる.
本項では,実際に多変量解析の中身と具体的な流れに焦点を絞って,ユーザー目線で解説を行う.なお,ページ数も限られるため,多変量解析についてより詳細に学びたい場合には,同じくユーザー目線でていねいに記載された,文献4)を参照していただきたい.
© Nankodo Co., Ltd., 2020