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は じ め に
人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)は,posterior stabilized TKA(PS)をはじめとして,前十字靱帯を切除する方法が主流である.しかしながら現在では,両十字靱帯を温存するbicruciate retaining TKA(BCR)や,生理的膝関節動態をインプラントデザインで模倣するmedial pivot TKA(MP)も普及している.また,TKAのみならず,膝関節機能を生理的に近い状態で温存できる人工膝関節単顆置換術(unicompartmental knee arthroplasty:UKA)も選択されている1).このように,手術手技やインプラントデザインおよびその選択には解剖学的な温存やより生理的な関節動態の再現が求められている.
このような多種のインプラントが存在する中でPritchett2)は,左右の膝に異なるインプラントが入った患者は,PSよりもBCRやMPを好むことを明らかにした.この理由として,両十字靱帯を温存すること,またはインプラントデザインによって生理的な関節運動を代用する傾向があると結論づけている.一方でBaumannら3)は,重心動揺計によるバランス能力の評価においてBCRはUKAと同等であり,PSよりも優れていることを機能評価の観点から報告している.
理学療法を行ううえでこれらの機能評価の観点は重要である.TKA後の最大の目標は,日常生活動作の改善であり,特に患者にとって困難な動作である階段降段動作4)は,生体力学的に片脚支持かつ膝関節伸展モーメントの発揮が必要であり,膝関節機能が重要な役割を担う5).このことから,TKA後の患者の膝伸展筋力や片脚支持機能の評価は有用であると考えられる.しかし,両者の関係についてTKAまたはUKAにおけるインプラント間で比較検討している報告は,われわれが渉猟したかぎり見当たらない.
片脚支持機能を評価する方法としてstar excursion balance test(SEBT)がある6).SEBTの前方リーチ動作は,片脚支持を開始肢位として,膝伸展筋の遠心性の筋収縮により膝関節伸展モーメントを発揮し,膝の屈伸制御を要求する課題である.これはまさしく降段動作に類似した動作である.
そこで本研究では,膝伸展筋力とSEBT前方リーチにより,BCR,MP,PS,UKAの4群の機能的な差異を比較・検討することとした.
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