- 有料閲覧
- 文献概要
長年整形外科医をやっていると,治療困難な疾患に遭遇することがある.もとより,自身の知識不足や経験不足により診断や治療が困難な場合には,その道の専門家に紹介し診療を委ねることに何の抵抗もないし,患者のためには是非そうすべきである.しかし,教科書にはありふれた疾患として載っていても実際には全国の多くの整形外科医にとって,ほとんど治療経験のない疾患が存在している.その一つが梨状筋症候群である.
私と梨状筋症候群の初めての出会いは,もうかれこれ27年前になる.その頃の私は電気生理学の研究のため米国に留学し,帰国した直後であった.37歳・女性のその患者は,いわゆる坐骨神経痛を訴え,他施設をドクターショッピングの如く訪れるも,どの施設でも画像上脊椎や骨盤内に全く異常所見がないため心療内科を勧められ続けてきたと涙目で話していた.その当時の私は,最新の電気生理学をアイオワ大学教授・Jun Kimura先生に厳しく鍛えられ過剰な自信を持っていたため,早速詳細な電気生理学的検査を施行した.しかし,単一神経根障害を示唆する所見はおろか,全く異常所見を得ることができず,本人に謝りながら2年間外来で経過観察させていただいた.その間,私には鎮痛薬を投与することくらいしかできず,思いあまって向精神薬を投与し,それに気づいた彼女に泣かれたことも何度かあった.それでも私のもとに通ってくれる彼女に驚くとともに,自分の整形外科のプロとしての無力感にさいなまれていた.学会に出張するたびに経験豊富な先生を捕まえて治療法についてアドバイスを求めたが,答えは決まって「神経内科か心療内科に任せては?」というものであった.それから私は坐骨神経の殿部での圧迫を証明するための電気生理学的新技術開発に真剣に取り組んだ.幸運にもその頃,臨床で梨状筋症候群の診断に有用であるとされてきたFreibergテスト,Paceテストなどを用いての診断に自信が持てなかったところ,股関節伸展位で外旋ストレスをかける腹臥位内旋テストを考案し,有用ではないかという感触を得ていた.
© Nankodo Co., Ltd., 2018