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「整形外科は骨折に始まり骨折に終わる」と,ご高名な先生のお言葉にあるように,骨折は整形外科を語るうえで欠くことのできない代表的な疾患である.整形外科医にとってもっとも身近な疾患といえる骨折ではあるが,その治療の歴史は決して輝かしい道のりばかりでなく,むしろ苦難の連続であった.骨折治療が難渋する最大の理由は,何といっても無限とも思えるそのバリエーションの広さである.それは単に骨折形態の個体差にとどまらず,骨強度,閉鎖性・開放性,軟部組織損傷の合併などがさまざまな程度で組み合わさることにより,その治療体系を複雑なものにしている.つまり骨折のバリエーションは治療における難易度のバリエーションと言い換えることもできる.百戦錬磨のベテラン整形外科医をもってしても,時には先のみえぬ迷路に迷い込み悪戦苦闘を強いられることもある.「完全な局所解剖の知識,洗練された識別力,冷静な判断力,豊富な経験,細心の注意,一言でいえば外科的技能と力量の総合力が試される」とは,1800年代に記された言葉であるが,200年後の現代でも決して色褪せていない.
さてここで,本書のタイトルである「骨折の治療指針とリハビリテーション」に注目する.読者の中には,前述のようにバリエーション豊富な疾患に対して,さらに多くの要因が関与するリハビリテーションを明快に示すことがはたして可能なのかと,疑問に思う方も少なくないのではないか.いかにももっともな疑問であり,まずはこの難題に真っ向から挑んだ,産業医科大学チームの酒井昭典教授,佐伯覚教授,各執筆者に敬意を表したい.そんな思いでページをめくると,そこには「標準的な骨癒合期間」,「標準的なリハビリテーション期間」の見出しが.それを目にして,いかに複雑な治療体系であっても,すべての基本は標準を知ることが第一歩と気づかされる.標準を知らずして応用はない.標準的なリハビリテーションを理解したうえで,個々の症例に応じプラス・マイナスを追加することによって,カスタマイズを理路整然と行うことができる.
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