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臨床医は診察に訪れた目の前の患者さんの臨床所見をとり,鑑別診断後,診断(疑診含む)を下し,次にその疾患の病勢が急性に変化するのか,それとも慢性に変化するのかを見極める.急性に病勢が変化することが予期される際には,生命に危機が及ぶことが多いので,速やかな診断と緊急の治療または専門医への救急搬送を必要とする.急性に変化する疾患を診察する際,その診療に役に立つガイドラインがあるならば,実地臨床を行ううえで非常に有益となる.このような主旨のもとで,『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017』が作成された.
甲状腺中毒症状を示す疾患として,バセドウ病,亜急性甲状腺炎,無痛性甲状腺炎,外来性甲状腺中毒症などがあるが,そのなかで頻度の高いのはバセドウ病であり,その臨床的三徴候として,心悸亢進,甲状腺腫,眼球突出がある.バセドウ病は通常,亜急性の経過をたどることが多く,臨床的三徴候を示していても,診断確定のために血液検査(最近では2時間以内に結果を出せる設備もある)や123I甲状腺摂取率を行った後,2週間後の再受診を勧めることが多い.しかし,バセドウ病が急性に激烈に起こると甲状腺クリーゼ状態となり,それは生命予後に大きな影響を及ぼし後遺症も高頻度に起こすので,その早期の診断と治療を要する.しかし,これまで甲状腺クリーゼを診断するには,Burch-Wartofskyの診断基準(1993年)しかなく,この診断基準は煩雑で,実地診療を行う際にも不便であった.そこで,日本甲状腺学会ならびに日本内分泌学会が中心となり(班長 赤水尚史教授),また,厚生労働省のホルモン受容体異常症研究班とも協力して,本邦における重症甲状腺中毒症を示す症例を基本に集積・分析・解析・検討が重ねられ,ここに最新の『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017』が策定・出版された.本ガイドライン作成の意義は非常に大きく,米国甲状腺学会からも,その学術的ならびに臨床的妥当性が推奨されており,国内だけに留まらず,日本から世界に向けて情報発信ができた貴重な臨床ガイドラインとなっている.また,本ガイドラインを基本としてさらに改訂を重ね,感度・特異度により優れた甲状腺クリーゼ診療ガイドラインになることも期待される.
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