特集 もっとうまくいく! 病診連携の「伝え方」―わかりやすく伝えるための診療情報提供書作成のコツ
第Ⅱ章 <診療科別>コンサルトのポイント
E.脳神経内科へコンサルト
1.歩行障害
土井 宏
1
,
田中 章景
1
1横浜市立大学医学部神経内科学・脳卒中医学
pp.564-566
発行日 2018年9月1日
Published Date 2018/9/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_naika122_564
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歩行は神経系,骨格筋,骨・関節系さらには循環器・呼吸器系など全身のほとんどすべての臓器・組織に加え,認知機能や精神状態も関与する非常に複雑な活動である.したがって「歩行障害」の有病者は非常に多く,漠然と原因疾患を列挙すると,ありとあらゆる疾患が含まれてしまう.また,まったく別の複数の疾患(たとえば脳梗塞と腰部脊柱管狭窄症)が重なって歩行障害を呈している場合もある.実際,海外のコホート研究では60歳以上の約3分の1が何らかの歩行障害を有し,神経疾患による歩行障害(15%)が非神経疾患による歩行障害(約8%)よりやや多く,両者の合併例も約9%程度存在するとされている1).歩行には,まず外界からの情報,すなわち視覚情報,前庭神経からの平衡感覚情報,末梢神経を経由して得られる運動覚,関節位置覚などの固有感覚情報の獲得が必要である.次に,これらの情報を前頭葉皮質,錐体外路系,脳幹,小脳で統合処理し,歩行に必要な運動プログラムを出力する.そして,複雑に制御された出力情報が錐体路,末梢神経を経て骨格筋へと伝えられることで,安定した歩行が得られる.つまり,神経疾患による歩行障害はこれら一連の過程に関わるいずれかあるいは複数の部位の障害に基づくものである.歩行障害はそれ自体でADL・QOLの低下と直結する問題であり,とくに転倒・骨折などによって,寝たきり,合併症による死亡にもつながる重大な障害であるため,治療可能な疾患を見逃さないことが重要である.
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