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米国のオピオイド禍1)
1996年,パデュー・ファーマ社は徐放性オキシコドン製剤であるオキシコンチン(現在発売されている製剤とは形態が異なることに留意されたい)の販売を開始した.同社は「依存の確率は1%未満である」と強調し,その適応をがん性疼痛に限らず,慢性腰痛,片頭痛,歯痛にまで拡大できると積極的なプロモーションを展開した.
こうした動きと歩調を合わせるように,米国疼痛学会(American Pain Society)は「痛みは第5のバイタルサイン」というスローガンを掲げ,「痛みを十分に除去することは倫理的に求められる医療行為である」とするキャンペーンを推進していく.さらに同時期,患者による医療機関評価が制度化され,評価機関を通じた病院・クリニックのランクづけが広く行われるようになった.その結果,患者満足度が低いと判断された医療機関は,保険会社から診療報酬の支払いを受けられなくなる可能性に直面し,医師はしだいに患者の求めるままにオキシコンチンの処方を選択せざるをえない状況へと追い込まれていった.パデュー社はこうした環境を背景に,オピオイドを処方する医師を主な対象とした接待や営業活動を強化し,経営陣が営業担当者に高額なインセンティブを与えたことで,社内外の販売競争はいっそう過熱していった.その結果,オキシコンチンの売上高は2000年には11億ドルに達し,同薬が「家庭に常備され,時に他人へ譲渡される」という異常な状況すら生み出すにいたった.しかし,「オキシコンチンは依存性が低い」とする同社の主張は,慢性疼痛患者を対象とした場合には科学的根拠に乏しかった.実際には錠剤のコーティングは容易に破壊可能であり,粉砕して吸引したり,溶解して注射する使用者が出現するようになった.その後,オキシコンチンを目的とした窃盗や殺人が増加し,さらに闇市場でより安価に入手可能なヘロインへと依存が移行する事例も相次いだ.その結果,医療目的以外のオピオイド使用による事故を原因とした救急受診数は,2004年の14万4,600件から2008年には30万5,000件へと急増した2).失業,低賃金,教育機会の欠如といった社会的剝奪,すなわち「心の痛み」を背景として,米国では現在もヘロインや密造フェンタニル依存が蔓延しており,1999年から2022年までのオピオイド関連死亡者数は約70万人,経済的損失は1.5兆ドルに及ぶ深刻な社会問題となっている3).

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