別冊秋号 オピオイド
PART3 社会編
34 日本の麻酔科医のオピオイド依存対策
山口 重樹
1
,
山中 恵里子
1
1獨協医科大学医学部 麻酔科学講座
pp.225-235
発行日 2022年9月15日
Published Date 2022/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200316
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文豪とオピオイド鎮痛薬
適切に使用すればオピオイド鎮痛薬(以下,オピオイド)は痛みを緩和して生活を改善する。文豪 正岡子規は終末期にオピオイドにより生活が改善されていたことが知られている。『病床六尺』に,「このごろはモルヒネを飲んでから写生をやるのが何よりの楽しみとなつて居る」という記載があり,正岡は脊椎カリエスによる激しい背部痛をモルヒネで緩和しながら,最期まで執筆活動を続けた。一方,オピオイドの不適切使用は生活を悪化させるのみならず,生命の危険をもたらす。文豪 太宰治はオピオイドの不適切使用により生活が悪化していった。『人間失格』に,「…久し振りにアルコールというサタンからのがれる事の出来る喜びもあり,何の躊躇も無く,自分は自分の腕に,そのモルヒネを注射しました。不安も,焦燥も,はにかみも,綺麗に除去せられ,自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした。そうして,その注射をすると自分は,からだの衰弱も忘れて,漫画の仕事に精が出て,自分で画きながら噴き出してしまうほど珍妙な趣向が生れるのでした。一日一本のつもりが,二本になり,四本になった頃には,自分はもうそれが無ければ,仕事が出来ないようになっていました。…」という記載があり,太宰自身,腹膜炎の治療後にオピオイドの不適切使用を続けた結果,精神依存に陥り,治療を受けたものの,最終的な顛末は自殺となった。この両者の違いを理解することは,麻酔科医のオピオイドの不適切使用を紐解く鍵となる。
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