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どんな薬?
まず,初めにトレチノイン(ベサノイド®)は抗がん薬ではありません.しかし,白血病の治療薬ということで,広義でがん薬物療法薬の一つと考えることができるため,取り上げました.
白血病は小児から高齢者まで幅広く発症する血液疾患で,不治の病や悲劇のヒロインといったイメージが強いと思います.有名人が白血病に罹患したニュースを聞いた人も多いかと思いますが,俳優の渡辺謙さんや本田美奈子さんなどが急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML),競泳選手の池江璃花子さん,漫才師の中島忠幸さんなどが急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)に罹患したと公表しています.また,今回取り上げるトレチノインの治療対象となっているAPLでは,歌舞伎役者の12代目市川團十郎さん,格闘家のアンディ・フグさんなどが罹患しています.市川團十郎さんはトレチノインによる分化誘導療法で一度回復しましたが,治療関連の骨髄異形成症候群となり,その後骨髄移植を受けています.白血病にはさまざまな型があり,治療効果と予後は異なります.現在は回復して仕事復帰している方もいれば,治療の甲斐なく亡くなられた方もいます2).
APLはAMLのなかの一病型ですが,特徴的な細胞形態と播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)症候群の合併による強度の出血傾向が現れる特徴があります.APLは白血病細胞が前骨髄球の段階で分化(変化・成長)を停止し,異形成の前骨髄球が増殖した状態です.研究によって,APLに特異的な染色体転座t(15:17)を有することがわかり,その治療薬としてトレチノインや亜ヒ酸が開発されました.これらの薬の登場によってAPLは予後良好な白血病の一つとなりました.しかし,APL細胞の粗大顆粒球に含まれる組織因子が線溶亢進型のDICを引き起こし,細胞内のプラスミノーゲンなどによって強い線溶亢進も伴うため,診断が遅れると重症の出血によって早期に死亡する場合もあるため早期発見,早期治療開始が重要です3-4).
トレチノインはビタミンA誘導体で,ビタミンAの50~100倍の生理活性を有しています.腫瘍細胞の多くが試験管内でビタミンA(レチノイン酸)やビタミンDなどによって成熟細胞へ分化することがわかっていたため,古くからビタミンAの誘導体である13-cis-レチノイン酸やビタミンDなどを用いてAPLの治療を行うことが試みられていました.これらの治療は,一定の効果を得ていましたが,1988年に上海第二医科大学が活性型ビタミンAであるオールトランスレチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)を用いて治療を行ったところ96%の完全完解が得られたと発表しました.ATRAはAPLに特異的なPML-RARα融合遺伝子が産生する分子を攻撃し,転写抑制を解除するとともに,PML-RARα融合遺伝子を分解させることで正常造血細胞が回復し,完解に到達すると考えられています3-4).

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