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はじめに
近年,乳がんの罹患者数は97,000人を超え,なかでも20代後半から40代後半の患者が急増している1).乳がんの5年相対生存率は92.3%以上と比較的良好で,乳がんに対する薬物療法の進歩によって長期生存が可能となっている1).それに伴い,乳がん治療後に生じる晩期合併症に着目したケアが求められる.乳がん治療の晩期合併症のなかでも妊孕性への影響は治療後のQOL (quality of life)や将来設計にかかわるため,どのように看護支援をするかが重要な課題である.
乳がん治療における妊孕性への影響は,化学療法や内分泌療法によって生じる.乳がんの化学療法では卵巣毒性が報告され,化学療法のレジメンにシクロホスファミドが含まれることで,無月経のリスクが生じる2).また,内分泌療法では,投与期間が5~10年にも及ぶことで,加齢に伴い妊孕性が低下する.そのため,挙児希望のある若年乳がん患者には,治療前に卵子や受精卵,卵巣組織凍結を行う妊孕性温存について支援することが重要となる.
『乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン 2021年版』2)では,挙児希望のある患者に対しては,生殖医療のメリット,デメリットを十分に説明し,個々の患者の希望や乳がんの状況を考慮して妊孕性温存を実施することが推奨されている.しかしながら,がん治療施設では妊孕性への影響に関する情報提供は行えているが,妊孕性温存の具体的な説明まではできていない現状がある.そこで,患者の妊孕性温存の希望を確認し,できるだけすみやかに生殖医療施設へと連携し,協力体制を構築する.そのためには看護師ががんの診断,治療という患者の苦悩や葛藤に寄り添いながら,治療開始までに治療後の人生設計を見据えた乳がん治療や妊孕性温存ができるよう支援することが重要である.
本稿では,術後補助療法までの期間に妊孕性温存を行った若年乳がん患者へ看護支援を行い,その過程でがん治療施設と生殖医療施設と協力体制を構築し,受精卵凍結を行い,がん治療に取り組むことができた症例について報告する.
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