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どんな薬?
多発性骨髄腫は,血液がんのなかで3番目に多い疾患です.比較的高齢者に多く,病気の進行は緩徐であることが特徴です.多発性骨髄腫は,B細胞系列の抗体を産生する形質細胞ががん化した疾患で,骨髄腫細胞は骨髄を中心に無秩序な増殖を繰り返すことで,骨や造血機能,腎臓などに障害を与えます.
多発性骨髄腫の治療は,長きに渡ってMP療法(メルファラン,プレドニゾロン)が標準的治療でしたが,2000年以降はプロテアソーム阻害薬のボルテゾミブや免疫調整薬のサリドマイド,レナリドミド,抗体薬のダラツムマブ,エロツズマブなどの新規薬剤が次々に開発され,治療選択の幅が広がってきました.多発性骨髄腫の治療は,大量薬物療法と自家移植を行うか否かでその戦略は異なります.65歳以上で重篤な感染症や腎臓障害,肝臓障害がある,移植を希望しない場合は通常の薬物療法を行うことになります.
ダラツムマブはCD38を標的とした治療薬で,多発性骨髄腫で承認されています.CD38はⅡ型膜貫通型糖タンパク質で多発性骨髄腫細胞の表面に過剰発現していることがわかっていますが,それ以外にも正常細胞である活性化したT・B細胞・NK細胞,単球,形質細胞,赤血球前駆細胞,脳細胞などに発現しています.また,CD38は気道収縮の過敏性反応を高めるといわれており,気管支喘息患者の肺ではCD38が増加しており,気道平滑筋の炎症応答を増幅しているといわれています.このように多くの細胞の表面にCD38が発現しているため,ヒト型抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブを使用することで,多種な副作用や合併症が出現することがあります.
ダラツムマブには2つの製剤があり,投与経路が異なります.最初に開発されたのが抗体薬であるダラザレックス®ですが,点滴静注すると長時間かかるという欠点がありました.そこで,ダラツムマブにボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)を配合した皮下注射製剤のダラキューロ®が開発されました.ダラキューロ®は,ダラザレックス®との比較試験(国際共同第Ⅲ相試験)でダラキューロ®の非劣性と安全性が確認されています.それぞれに特徴(表1)が異なる部分があるので,適応を考慮して使用する必要があります.
[ヤンセンファーマ:ダラザレックス®点滴静注100 mg・400 mg医薬品インタビューフォーム,第9版,2022年4月/ヤンセンファーマ:ダラキューロ®配合皮下注.医薬品インタビューフォーム,第6版,2023年4月を参考に筆者作成]▼表1 点滴静注と皮下注射の薬剤の比較 投与経路 静脈投与(点滴静注) 皮下投与(皮下注射) 販売名 ダラザレックス® ダラキューロ® 薬剤分類 ヒト型抗CD38モノクローナル抗体 ヒト型抗CD38モノクローナル抗体/ヒアルロン酸分解酵素配合剤 適応疾患 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫,全身性ALアミロイドーシス 投与時間 約3~6時間(初回約4~6時間) 約3~5分 前投薬 【投与開始1~3時間前】 【投与開始1~3時間前】 解熱鎮痛薬,抗ヒスタミン剤,ステロイド 解熱鎮痛薬,抗ヒスタミン剤,ステロイドを投与 そのほか 腫瘍崩壊症候群に注意 注射部位反応に注意
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