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どんな薬?
セツキシマブは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)を標的とした抗体薬で,日本では2008年に「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」で承認されました.EGFRは大腸がんの約80%で高発現しているといわれており,肺がんや頭頸部がん,乳がん,胃がん,卵巣がんなどでも発現しています.また,EGFRは腫瘍細胞以外にも皮膚や腸管粘膜上皮,外毛根鞘細胞,脂腺・汗腺の基底細胞などに発現していて,皮膚や毛包,爪の増殖や分化に関与しています.そのため,EGFR阻害薬を使用すると,EGFRが阻害され,角化異常と爪母細胞の分化異常によって皮膚乾燥症,皮膚炎,爪囲炎などの副作用が高頻度に発現します.
EGFRは膜貫通型の受容体で,細胞外のリガンド(EGFなど)と結合することによって,EGFRチロシンキナーゼが活性化され,細胞内シグナル伝達を介して細胞増殖,分化などに関与します.細胞内の下流シグナル経路にはRAS/RAF/MAPK経路,PI3K/AKT/mTOR経路などがあり,正常組織では細胞分化,増殖,維持に重要な役割を果たしています.
EGFRを標的とした薬には抗体薬(抗EGFR抗体)と小分子化合物(EGFR-TKI)があります(表1).セツキシマブはヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体で,細胞表面にあるEGFRに結合することで,EGFRシグナル伝達が阻害され,腫瘍の増殖抑制効果を示します.承認当初はEGFR陽性症例が適応でしたが,その後の臨床試験の結果でEGFRの発現の強度と腫瘍の反応性は相関しないことがわかり,2019年に効能,または効果からEGFR陽性の文言が削除されました.一方で,EGFRのシグナル伝達の下流にあるKRAS遺伝子に点突然変異が起こると,変異型のRASタンパク質が作られ,恒常的に細胞の増殖を促進するシグナル伝達経路が活性化するため,治療効果が乏しいことがわかりました.そのため,セツキシマブを使用する前にKRAS遺伝子変異の有無を確認する検査を行う必要があります.
▼表1 EGFRを標的とした分子標的薬 抗EGFR抗体 EGFR-TKI セツキシマブ ゲフィチニブ パニツムマブ エルロチニブ塩酸塩 ネシツムマブ アファチニブマレイン酸塩 オシメルチニブメシル酸塩 ダコミチニブ水和物
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