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はじめに
ターミナルケアによって患者が苦痛なく,そして患者自身が望む日々を過ごして向かえた穏やかな死は家族のその後のグリーフワークに影響を与え,家族のQOLに貢献することが多くの研究からわかってきている1,2).かつての日本では,看護師のがん患者とのかかわりは,がんの疑いからの入院に始まり,不安な検査段階,がんの告知場面,続く治療過程と連続していた.また,終末期は長い入院生活を送る患者への日々の援助をとおして,看護師は患者だけでなく家族の思いも汲み取り,看護師と家族の結びつきも強かった.患者と死別した遺族の病棟訪問もごくあたり前で,互いに顔を見て思い出を話すことで癒しの時間となっていた.しかし,現在はがんの診断や説明,治癒に向けての治療がなくなったことも外来で告げられる.がんの治療中においても入院期間の短縮により,家族は早期退院し体調の回復ままならない患者とともに不安や不確かさに揺れながら生活を送っている.医療者のいない日常で,さまざまな困難を家族内で対処しており,その姿は見えづらい.最期を迎える際も予後数週間や数日で入院となったり,反対にそのような状態で在宅療養移行となることも多い.看取りに向けて医療者も短い時間で患者と家族を理解する必要があり苦慮している.患者の死後において,たとえ手厚いターミナルケアを受けたとしても,家族は医療者から突然手を離され患者のいない変化した世界に放り出され,懸命に生きることに対処している.そのため,あえて医療者が踏み込まなければ,家族の望むケアは家族から表出されづらくなってきている.
本連載の最後となる本稿はターミナルケア,グリーフケアの研究動向を眺めながら,今後の家族のケアの展望について考えたい.
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