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「アピアランスケア」は,国立がん研究センター中央病院の外見関連支援チームが提唱した造語であり,対外的に使用し始めたのは2012年からです.医療者が行うがん治療に伴う外見のケアについて,単なる美容的な問題ではないことを明確にし,その身体・心理・社会的な問題に対して,治療や整容的手法,心理社会的介入を用いて包括的に支援を行うことを表すために,新しい用語を使い始めました.まだ10年程の新しい概念ですが,がん看護に携わる医療者の間に浸透し,アピアランスケアを学びたいと希望する人も年々増えています.しかし,アピアランスケアについては体系的にまとめられていないこともあり学ぶ機会は少なく,広告的な文言やネット情報など不確かな情報に惑わされているのが現状です.また,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬による新しい外見への副作用が現れる一方で,頭皮冷却システムの医療機器承認など新しいケアの方法も登場し,学ぶべきことは増えています.さらに外見の悩みは,患者を取り巻く社会の状況も反映するため,時代と共に対処方法が変化する部分もあります.当院アピアランス支援センターで提供するケアも,多くの臨床実践を重ねる中で徐々に進化しています.このような背景の中,患者さんにとって最適なアピアランスケアの選択について迷う方も多いかと思います.
判断に迷った時,私たちは医療者である以上,常にエビデンスに基づき方法を選択していかなければなりません.エビデンスが不十分なアピアランスケアの分野ですが,2016年に発刊された『がん患者に対するアピアランスケアの手引き』には,それまでに明らかになっている知見がエキスパートオピニオンとともにまとめられており,医療者がケアを行う際の指針とされてきました.この手引きが2021年に『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン』として改訂されました.そこでこの機会に,アピアランスケアを実践する皆さんに今一度エビデンスを意識し,自分の行っているケアを再確認していただきたく,今回の特集を企画いたしました.
この特集では,このガイドラインの作成に関わった先生方に,現在までに集積しているエビデンスから考えられる最も新しいアピアランスケアについて,臨床現場で使いやすい形で解説していただくことで,明日からの看護実践に即活かしていける内容を学ぶことを目標としています.また,医療者にはわかりにくい化粧品やウイッグに関する事柄についても,香粧品や頭髪装飾用繊維に造詣の深いエキスパートの先生方に科学的見地からの解説を,理解しやすいQ&A方式でお願いしました.
今までアピアランスケアを学ぶ機会がなかった人だけでなく,既にアピアランスケアを実践している人にも最新の知見に触れていただくことで,より多くの患者さんに一歩進んだアピアランスケアが提供されるようになれば幸甚です.
本特集のなかで出てくる「ガイドライン2021」「ガイドライン」は,特に断りがない限り『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』を示しています.
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