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事例紹介
プロフィール
Eさん,62歳,女性,乳がん.既往に糖尿病(乳がん診断時から治療開始)がある.
経過
2年前に右乳房のしこりを自覚していたが,症状がないため受診せず過ごしていた.徐々にしこりが増大し,皮膚のひきつれがみられ自壊が進み,出血や滲出液がみられるようになり,受診した.局所進行右乳がんT4bN3M0 StageⅢC (ER:-, PgR:-, HER2:2+)と診断された.DHP療法(ペルツズマブ+ドセタキセル+トラスツズマブ)を3週間に1回の治療を開始した.8コース投与した時点で,局所進行,多発肺転移が見つかりStageⅣとなった.ある日,Eさんが朝シャワーを実施した後,腫瘍から出血が続き,緊急入院となった.
Eさんは,右胸自壊創の痛みがあり,アセトアミノフェン(カロナール®)を3回/日内服していた.自壊創はEさん自身で,シャワーで洗浄後ワセリン(プロペト®軟膏)を塗布し,紙おむつを当てるケアを行っていた.Eさんは「食事は食べようと思えば食べられるけど,のどを通過しない.ひっかかる感じがある」と話し,お粥(かゆ)や栄養補助食品(液体)を摂っていた.
入院後疼痛コントロールのため,Eさんにはモルヒネ(MSコンチン®とオプソ®)の内服が開始された.また自壊創の止血目的で放射線療法が右乳腺と縦隔を照射野として,それぞれ30 Gy/10 Frで開始となった.照射に際して仰臥位での呼吸苦と挙上困難があり,照射前にオプソ®を予防内服し治療を行った.照射終了後1週間程度すると徐々に出血することも少なくなってきた.自壊創は隆起と硬結はやや縮小し,周囲の皮膚は中等度紅斑がみられたが皮膚の剝離は見られず,プロペト®+ロゼックス®軟膏(メトロニダゾール)を塗布して非固着性のガーゼを当てるケアを継続することになった.
放射線療法が終了したEさんは,「もう抗がん薬をする体力もない.放射線の効果はまだわからないけど,つかえる感じはちょっとよくなった.出血や滲出が少なくなるなら家で過ごしたい」と退院を希望された.訪問医,訪問看護など在宅療養の調整を行い,放射線療法終了1週間後に自宅に退院することになった.
身体所見と検査値
右乳房自壊創は,ほぼ全体が腫瘍でカリフラワー状で硬結あり,においも強く,大量の滲出液とともに出血が続いている.顔色は蒼白で「息苦しい感じがあり,上を向いて寝られない」と訴えあり.
右胸自壊創の痛みあり,右上肢のむくみがある.
入院時所見はCTにて右腋窩,縦隔,両側肺門リンパ節転移,右胸水貯留あり.右肺呼吸音減弱あり.
体温は37.2℃,脈拍92回/分,呼吸数18回/分,102/62 mmHg.
WBC:9,100/μL, Hgb:8.4 g/dL, PLT:37,800/μL, TP:6.4 g/dL, ALB:2.8 g/dL, CRP:6.3 mg/dL.
社会的背景
会社員の夫と二人暮らし,専業主婦であり子どもはいない.
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