特集 がん患者に寄り添うコミュニケーション ~事例で学ぶ患者とのかかわりかた~
Ⅱ.コミュニケーションの実際 ~事例編~
怒り② 治療が長期化し,退院の見通しが立たないいらだちから家族との関係が悪化した高齢の胃がん患者
我妻 志保
1
1昭和大学病院看護部/がん看護専門看護師・乳がん看護認定看護師
pp.159-162
発行日 2021年2月15日
Published Date 2021/2/15
DOI https://doi.org/10.15106/j_kango26_159
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❁ 事例紹介
Nさん,80代前半,男性.
晩年はパーキンソン病を患っていた妻とともに,近県の温泉街に暮らしていた.妻は数年前に逝去し,その後は一人暮らしをしていた.
患者は胃がん(ステージⅡA)と診断され,幽門側胃切除を受けた.術後補助療法(TS-1)は皮疹が出現したため1年4ヵ月で終了した.手術から4年後に局所再発し,残胃全摘術を予定されたが肝転移を認めたため試験開腹のみ行った.その後,腫瘍内科に転科しCapeOX療法を6ヵ月ほど行ったが,間質性肺炎を発症したため中止した.残胃がんが増大したためTS-1療法を再導入され1年6ヵ月行った.腹膜播種も認めることとなり,レジメン変更のため入院治療となった.「早く治療して家に帰りたい」と繰り返し話しており,治療に前向きに取り組んでいた.入院期間が1ヵ月以上にも及んでいたが,長期の腸閉塞のため溢流性便秘*を生じており,便秘と下痢を繰り返していた.しだいに些細なことでいらだつ姿がみられるようになり,「こんな食事いらない」と声を荒立てたり,毎日行っていた清潔ケアをすすめても拒むようになった.数日後に,治療方針について家族を交えて主治医より説明の機会をもつこととなっていた.いらだっている姿が多くなり看護師との会話が少なくなっていることもあったため,Nさんが感じている苦痛や困難なことについて話をきこうと思い訪室した.
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