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21世紀のがん医療では,「治す医療」から「治し,支える医療」へのパラダイムシフトが起きている.筆者は,1990年代後半から「がんの社会学」を提唱し,がん克服を目指すがん対策・がん医療においては,医療機関とともに,社会のさまざまな医療資源が協働して,国民・患者・家族を支えることの重要性を主張してきた1-4).
図1に示すように,がん対策あるいはがん医療の主体は,予防・検診・治療・ケアの4分野である.このうち,予防・検診の実施主体は,国・都道府県・市町村・企業などの行政・職場・医療機関の一部であり,一方,がんを疑われた,あるいは,がんと診断された患者の治療・ケアは主に医療機関が担っている.
この構図について現状を分析すると,予防については,国民1人ひとりの予防活動実践の動きは活発とはいえず,がん検診についても,国民の受診率は5割に満たず,職域でのがん検診も標準化されていない.
治療・ケアの分野では,新しい医療技術の導入により,患者のquality of life (QOL)は大幅に向上した.しかし,治癒が困難な難治がんや治療後,再発・転移を起こしたがんの治癒率は以前と比べて,あまり改善していない.また,「病気の治療・ケア」とともに,「全人的医療」という観点からみた「患者の治療・ケア」の重要性も増している.
このような現状認識の下,「がんの社会学」では予防・検診・治療・ケアの各分野において,介入,治療,ケアは従来の体制で実施することを前提として,社会の医療資源を積極的に活用し,連携を強化することによって,より効果的,効率的ながん対策と,患者・家族の満足度が高いがん医療を実現することを目標としている.
筆者らは「がんの社会学」の研究を,1998年,国立がんセンターで開始し5),1999年には「がんサバイバー研究」を並行して実施し6),その後,がん臨床研究事業,第3次対がん総合戦略事業の補助金に引き継ぎ,継続した.さらに,その研究成果を基に,2002年に開設された静岡がんセンターでは実践に取り組んだ.「がんの社会学」の成果は,筆者がこれまで関与してきた厚生労働省がん対策推進協議会,がん診療連携拠点病院関連の検討会などで取り上げられ,国の施策である,改正がん対策基本法7),がん対策推進基本計画8),がん診療連携拠点病院等の整備指針9)などにも反映されている.
「がんの社会学」の重要な基盤的手法として,「疾病管理」「がんサバイバー研究」「医療資源」「情報提供・啓発活動・がん教育」の4つを挙げることができる.本稿では,「がんの社会学」の基盤的手法,静岡がんセンターの取り組み,そして,その標準化と一般の医療機関への普及などについて述べてみたい.
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