Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
近年,化膿性脊椎炎は国内外において増加傾向にあり,しかも診断が遅延あるいは誤診しがちな疾患として注目を浴びている.欧米では10万人あたり5~10人の発生頻度であり,国内においても10万人あたり2007年は5.3人であったが,2010年には7.4人に増加した1).2011年にYoshimotoらは国内における化膿性脊椎炎の103例のうち65歳以上の高齢患者の割合が43.7%で,時代とともにその割合は37.5%(1988~1993年),44.4%(1994~1999年),55.5%(2000~2005年)と増加傾向にあったと報告している2).この理由には,MRIによる画像診断の進歩と化膿性脊椎炎という概念の普及があげられる.さらに,インプラントを用いた脊椎手術の普及,抗菌薬の乱用による耐性菌の増加,人口の高齢化およびこれに伴う易感染性宿主の増加など医療環境の変化が考えられる.
化膿性脊椎炎は,早期に診断し適切な対応をとれば保存的治療で十分に治癒可能であるが,時に診断が遅れ,結果として感染の重篤化や遷延化,すなわち麻痺の発現や敗血症を惹起し治療に難渋することがある.化膿性脊椎炎の早期画像診断法としてMRIの有用性が確立されているが,発症後,超早期には感染を示唆する所見に乏しく,また信号変化が認められても特異性が低いうえ,罹患椎体の骨微細構造の変化をとらえることも不可能である.筆者らは骨微細構造画像が得られる多列器CT(multi-detecter row CT:MDCT)を用いて化膿性脊椎炎の初期から抗菌薬投与後治癒までの椎体の病態解析を行い,その有用性を報告している3).
化膿性脊椎炎の治療は局所の安静と感受性のある抗菌薬治療の保存的治療が原則であるが,中には局所の骨破壊が進行し神経麻痺の発症により手術になる.局所の骨破壊が進行増大すると,脊柱変形や麻痺を併発するため診療上大きな問題となる.骨破壊の実行役として破骨細胞は不可欠であり,破骨細胞が欠損したreceptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)knockout mouseでは,炎症を伴うも骨破壊は起こらないことが知られている4).最近,骨粗鬆症のみならず関節リウマチ,転移性骨腫瘍の骨破壊はRANKLにより分化・活性化した破骨細胞の関与が指摘され,抗RANKL抗体治療が実践されている5).しかし,化膿性脊椎炎における骨破壊の機序はいまだ解明されていない.そこで,本研究では血行性化膿性脊椎炎に対する骨破壊機序をMDCTで解明し,抗RANKL抗体の骨破壊抑制効果を検証する.
© Nankodo Co., Ltd., 2022