発行日 2008年7月1日
Published Date 2008/7/1
DOI https://doi.org/10.15106/J00393.2008258176
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症例は心房細動と高血圧の既往がある69歳男性で、突然心窩部痛と嘔気が出現して救急搬送され、来院時の心電図での心房細動以外は血液・X線像で明らかな異常所見は認めず、精査観察目的で入院となった。腹部CTでは上腸間膜動脈(SMA)根部より3スライス下方の造影CTではSMAは造影されず、低信号を呈していたが、白血球の急激な上昇と腹膜炎症状を認めたことから発症10時間後に緊急開腹術施行となった。術中所見では小腸の広範壊死を認め、SMA根部周囲の検索では第一空腸動脈分岐後の動脈拍動は触知できなかったため、根部から約2cmの部位で切開し血栓を除去し、さらに小腸は色調と拍動の良い部分で約3m切除して吻合した。手術翌日からAST・ALTが急に上昇し、腹部ドレーンから胆汁様排液を認めたためSMAの再閉塞とそれに伴う縫合不全を疑い再開腹となった。術中所見では小腸に関しては特に問題なく、胆嚢の壊死と肝臓の変性を認め、総肝動脈の拍動が触知できなかったため再び血栓除去術と胆嚢摘出術を施行した。術後は抗凝固療法の施行により術後8日目には水分摂取が可能になるまで回復したが、術後20日目に正中創から多量の膿が流出したため、同部位よりネラトンを挿入しドレナージを続けることで膿瘍腔は徐々に縮小した。術後治療はヘパリン1万単位から開始し、PT-INRは1.8~1.9に、APTTは60を目標に増減し、食事開始とともにワルファリンに変更した。明らかな短腸症候群をきたすこともなく術後81日目に軽快退院となった。以上より、急性腹症で基礎疾患に器質的心疾患や心房細動を有する場合には、総肝動脈塞栓症を念頭に置くことが重要と考えられた。
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