特集 FGFシグナルの新たな制御機構:新規な活性調節分子の発見と関連疾患治療の最先端
せるてく・あらかると
花形因子とは?
嶋村 健児
1
1熊本大学発生医学研究所 脳発生分野
pp.455-456
発行日 2012年3月22日
Published Date 2012/3/22
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どの世界にもその時代の花形というものがあるわけで,私が身を置く発生生物学の世界では,1980年代半ばから90年代にかけての花形選手(ここでは人物ではなく遺伝子産物)は,細胞の運命や個性を細胞内で規定する種々の転写制御因子と,細胞外からコントロールするシグナル因子やその経路だったと言えば,おそらく多くの賛同を得られるのではないでしょうか.とはいえ,大学院時代,私は接着分子カドヘリンの研究をしておりました.そもそも生物の形に惹かれてこの世界に入った私は,その形作りの仕組み,いわゆる形態形成に興味がありました.しかし,発生生物学における接着分子研究の実際は,少なくとも私の眼には随分地味なものに映りました.もちろん,カドヘリンは細胞接着研究の花形選手であることは間違いないし,生物の体は細胞の集合体ですから,細胞と細胞をいかにくっつけるかということは多細胞体の形作りのきわめて本質的な問題だという自負もありました.しかし,当時まだ個体レベルでの遺伝子の機能解析は今のように一般的ではなく,ラボではもっぱら培養細胞を用いた実験が主体で,私も胚から組織をとってバラバラにして……という類の実験ばかりやっておりました.そういった中,ラボの論文抄読会で私が紹介する論文は,細胞接着から,誘導とかパターン形成といった発生の花形トピックへ次第に傾いていきます.偶然だとは思いますが,そうこうしているうちに花形因子のWntシグナルとカドヘリンの関係について研究する機会を得ました.それを機に変異マウスも使うようになり,今から思えば何ともミーハーですが,何となく自分の研究が華やかになってきた気がしました.
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