- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
I.はじめに
わが国は現在,諸外国がかつて経験したことのない超高齢社会を迎えている.加齢とともに生理機能はすべて低下するが,特に心機能,呼吸機能,腎機能の低下が顕著である.この中で腎機能の低下は薬物を排泄できなくなり,腎から排泄される薬物の血中濃度の上昇をきたし中毒性副作用の原因になる.30歳代に比べ80歳代では腎血漿流量が40%に低下し,腎機能,つまり糸球体ろ過量(glomerular filtration rate:以下,GFRと略す)は50%近くに低下し,半数以上が慢性腎臓病(chronic kidney disease:以下,CKDと略す)と診断される(Strehler et al., 1960).CKDとは蛋白尿,血尿などの腎障害の存在またはGFR 60mL/min/1.73m2未満が3か月以上続くものとされ,ステージ1〜5に分類されるようになった.2012年以降のCKDの重症度分類は,蛋白尿が高いことも末期腎不全への進行,心筋梗塞・脳卒中・心不全などの心血管病変死のリスクが高くなることから,GFRステージ,蛋白尿ステージがともに細分化されたヒートマップが利用されており(日本腎臓学会,2012),GFRが低いほど,薬物による中毒性や薬剤性腎障害が起こりやすくなる.また,尿蛋白区分はA1〜A3に区分され,尿蛋白区分の数字が大きくなるほど蛋白尿が多くなり,透析導入リスクとともに心血管病リスクも上昇するため,早めの腎臓内科への紹介が必要となる.
高齢者は動脈硬化による腎血流の低下に伴って腎機能が低下しやすくなり,腎排泄型薬物の血中濃度が高くなって,中毒性副作用が起こりやすくなることが問題となっている.そのため「高齢者を見たらCKDを疑う」べきである.また薬剤性腎障害の最大のリスクは高齢者と腎機能低下患者であり,さまざまな病変を複数持ち,薬物療法を最も必要としているのは高齢者である.本稿では,高齢者薬物療法の中で最も注目すべきポイントである加齢に伴って増加する腎機能低下患者への医療人としてのかかわりについて考えてみたい.
Copyright © 2020, JAPAN ACADEMY OF NEPHROLOGY NURSING. All rights reserved.