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I.はじめに
「さぁーさぁーお立ち会い」で始まる筑波山名物ガマの油の口上.もともとは,大坂の陣に徳川方として従軍した筑波山中禅寺の住職が持参した陣中薬に由来するという言い伝えもあるが,このように“塗ったり”“貼ったり”するだけで怪我や病気が治る薬はとても魅力的である.しかし,残念ながら現在のバイオ医薬品の開発は複雑化をきわめており,さらに医療機器も高度なインフラに依存しているものが多い.そしてインフラに依存しすぎたがゆえに陥ってしまった現代の医療の落とし穴も目を背けられない課題として山積している.
たとえば,血液透析治療はテクノロジー面からいえばすでに完成されたものととらえられがちだが,患者の立場に立った場合,果たしてそうなのだろうか.
2015年9月10日,台風18号の通過に伴う記録的な大雨によって茨城県を含む北関東では河川の堤防決壊が起きた.鬼怒川の決壊による大水害に見舞われた茨城県常総市では,停電・断水によって医療体制が危機的な状態に陥った.ましてや東日本大震災や阪神淡路大震災のような規模ではどうだろうか.震災や豪雪などが起きるたびに患者の集団疎開や仮設住宅での切実な様子がニュースなどで流され,あらためてわが国の医療が高度なインフラなしでは成り立たない事実を目のあたりにする.
ましてや途上国などの低インフラ地域ではどうだろうか.世界保健機関(WHO)によると,世界70億人のうちおよそ50億人もの人々が1日2ドル未満で生活しており,そのほとんどがアフリカやインドなどの開発途上国で暮らしている.その貧困さが原因で,下痢や肺炎など適切な治療・診断さえ受ければ助かるような病気によって,多くの子どもたちが命を落としている.5歳未満の子どもの死亡率は1990〜2000年にかけて大幅に減少したが(世界全体では11%減),それでもなお,毎年1,000万人以上が5歳まで生きられずに死亡している(本木他,2005).
こうした現状のもと,2000年に開催された国連ミレニアムサミットにおいて,21世紀の国際社会の目標として「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」が掲げられた.その主な目標を表1に示す.
2015年までに8つの目標と,18のターゲット,48の指標の実現を目指すという公約がなされていた(The United Nations, 2011).この表が示すように,貧困層の多い開発途上国などでは,衛生管理に加え早期に適切な治療を施すことが大変重要となってくる.その際,用いられるテクノロジーが,それぞれの地域でアクセス可能かどうかということを第1に考慮しなければならない.あらためて21世紀の医療は,いつでも,どこでも,誰でも受けられる医療の実現であることが望まれる(荏原,2012).
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