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Ⅰ.はじめに
現在,わが国の慢性透析患者数は約21万人以上で,そのうち糖尿病性腎症による透析患者は4割を占め,年々増加している1).さらに,糖尿病性腎症の透析患者は血糖不良や腎不全のカルシウム代謝異常による動脈硬化の進行,透析除水による末梢血管収縮で下肢の虚血をきたしやすく,急速に下肢潰瘍や壊疽を増悪しやすいといわれ,実際下肢切断に至る症例も多い2~4).このように,下肢末梢循環への影響は微小循環障害をもたらし,下肢の皮膚毛細血管の血流量低下が下腿潰瘍や壊疽の進行要因の1つと考えられている5,6).
糖尿病性腎症透析患者の下肢壊疽を予防するためには,血糖や感染管理とともに,下肢末梢循環を改善する必要がある.そして現在,末梢循環障害の治療における非侵襲的な方法の1つとして高濃度人工炭酸泉装置(以下,人工炭酸泉装置と略す)を用いた炭酸泉足浴が行われ,有効性が報告されている7).この人工炭酸泉装置は,湯内に人工的に炭酸ガス1,000ppm以上を含有することを可能とする8).そして,この炭酸ガスが経皮的に吸収されると,末梢血管拡張,皮膚血流量が増加し9),それにより皮膚微小循環改善効果が見込まれると考える.しかし,患者がこの装置を使用する場合,一般に人工炭酸泉装置を使用する透析施設やリハビリ施設に通院するか,あるいは患者自身が150万円の装置を購入する必要がある.さらに装置に付属する二酸化炭素ボンベ交換や装置の定期的なメンテナンスをする必要があり,経済的,物理的な負担をもたらす.
もし,炭酸入浴剤が人工的に高濃度炭酸泉産生を可能とするなら,人工炭酸泉装置と同等に下肢の皮膚微小循環改善効果をもたらし,患者自身が安価で簡便にセルフケアを可能とする「糖尿病性腎症透析患者の下肢潰瘍・壊疽の予防ケア」につながるのではないかと考えた.そして,湯温,量,炭酸入浴剤の量を調整し,実験した結果,考案した炭酸入浴剤を用いた高濃度炭酸泉足浴は,皮膚血流量増加に有効な炭酸ガス濃度を含有する知見を得た10).
次に,この検証に基づき,糖尿病性腎症透析患者の下肢潰瘍・壊疽の予防ケア開発のために,以下の2つの研究段階に分けて実験研究を行った.
第1の研究段階では,炭酸入浴剤を用いて考案した高濃度炭酸泉足浴(以下,炭酸泉浴剤足浴と略す)は下肢皮膚血流量を増大すること,また,循環動態への影響がなく,安全な方法であるかを検証するために,糖尿病性腎症透析患者11名全員に3種類の足浴,すなわち炭酸泉浴剤足浴,人工炭酸泉装置の足浴(以下,装置足浴と略す),湯のみの足浴(以下,湯足浴と略す)を実施しながら,下肢皮膚血流量を定量的に測定し,比較した.この結果,炭酸泉浴剤足浴は装置足浴と比べて同等に下肢皮膚血流量が増加することを示し,皮膚微小循環改善効果による下腿潰瘍や壊疽予防ケアにつながる可能性が示唆された11).
そこで本研究では,第2の研究段階として,炭酸泉浴剤足浴は糖尿病性腎症透析患者が簡便に,継続的にセルフケアできる方法であるかを検証することとした.このことは,糖尿病性腎症透析患者に炭酸泉浴剤足浴を家で約1か月間実施することを依頼し,患者がセルフケアとして毎日,継続実施可能な方法であるかを検証することで,炭酸泉により下肢の皮膚微小循環を改善し,下肢壊疽予防ケアにつながると考えたからである.
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