第6回日本腎不全看護学会・学術集会記録 【特別講演】
老年期の生きがいと死にがい
井上 勝也
1
1筑波大学心理学系
pp.10-12
発行日 2004年4月15日
Published Date 2004/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.7003100171
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Ⅰ.喪失期としての老年期
一般的に高齢者は,老年期を“何かを失う時期”というとらえ方をすることが多い.失うものは大きく分けると,心身の健康,経済的基盤,社会的つながり,生きる目的のいわゆる“4つの喪失”である.老年期は自殺率が高い時期であるが,その主因は病苦と家庭不和である.高齢者は,4つの喪失のうち,心身の健康と社会的つながりを喪失したと思い込み,それが“引き金”となって自殺してしまうようなこともおこる.もちろん実際には,老年期における人間関係調整能力の向上あるいは温和・円熟のように,年齢を重ねることで獲得できるものがたくさんあるにもかかわらず,である.
また,このとらえ方は世間によって加速させられている傾向がある.たとえば,私たちは高齢者に向かって「お若いですね」と挨拶することはないだろうか.若くもない人にこのような挨拶をするということは,しかもそれに高齢者がうれしそうな顔をするということは,それが社会的にほめ言葉になっており,高齢者も含めた世の中全体に若さ指向の価値観がある証拠であろう.そしてもちろん,若さ指向があるということは,裏を返せば老いの否定があることを意味しているといえよう.現在の高齢者は4つの喪失に加えて,老いていることはあまり価値がないという圧力を世間からかけられている状況にあるといえるのである.
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